研究課題/領域番号 |
19K00447
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
齊藤 美和 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (90324962)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 終活 / 近代英国の女性 / 助言書 / 伝記 / 寡婦 / 母・妊婦 |
研究実績の概要 |
本研究は、ars moriendiが中世における臨終の床という限られた場面での魂の振る舞い方から、日常生活のなかで死と向き合うための流儀へと移行したといわれる近代において、実際に人々が日々どのような姿勢で死と向き合ったかについて、生活に密着した資料を個別具体的に調査することにより、研究しようとするものである。特に、当時の女性の〈終活〉のあり方について、彼女たちが死をとりわけ強く意識したであろう人生の二つのステージ、すなわち、<出産>と<家族との死別>に焦点を合わせ、彼女たちの残した遺言や手記等を中心に調査することで、女性特有の〈終活〉のあり方を明らかにすることを目的とする。 本年度は昨年度実施したオックスフォード大学ボードリアン図書館および大英図書館での手稿および出版物の調査に基づき、当時の「寡婦」の終活について研究を進めた。具体的には、夫に先立たれた妻が日々の生活のなかでどのように死に備えたのか、その終活のあり方を考察するにあたり、まず、近代に盛んに出版された女性のための作法書を調査し、そこで唱えられている寡婦としての務め―すなわち、夫を弔うこと、亡き夫と共にあること、夫の記憶を胸に生きること―が、そのまま寡婦たちが己の死に備え、よき死を迎えるための往生術でもあったことを確認した。次いで、作法書で示された理想の寡婦像に対し、当時の寡婦たちが実際に「死の稽古」をどのように行っていたのか、個別のケースを考察するために、寡婦たち自身が書き残した手記、特にGrace MildmayとKatherine Austenの瞑想禄(meditations)を中心に調査し、寡婦による終活の実践法を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画は、「助言書としての観点から、女性の遺言や墓碑銘について分析を進める」ことであった。上記「研究実績概要」に記した寡婦による瞑想禄は、彼女たち自身の遺言も兼ね、子どもたちに助言を残すという意図もあって書かれたものであり、研究課題を実施するうえで調査対象とすべき適切な第一次資料であった。こうした文献を中心に分析した結果、寡婦たちが夫の亡骸を見守りながら死の予行演習に勤しみ、ときに夢で夫と交信して自らの死期を探り、子らに人生の助言という精神的遺産を譲渡する手はずを整え、遺言を作成するさまを探り、女性が日常生活のなかで具体的にどのように〈終活〉を行ったのか、その実践法を明らかにすることができた。よって、研究課題への取り組みは順調に進んでおり、本年度までの研究成果は、2020年12月20日(日)に開催された日本英文学会関西支部第15回大会(オンライン開催:開催校近畿大学)で招待発表「近代初期における寡婦の終活」を行い、公表した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は研究の対象を寡婦に絞って行った。したがって、最終年度となる2021年度は、妊婦と出産に焦点を絞り、本研究の目的である二つのライフ・ステージにおける「女性の終活」について、研究を取りまとめることとする。研究計画では、最終年度は主に「女性の遺言を自伝という観点から分析」することとしている。2年間の研究で不足している文献を国内の図書館・研究機関等を利用してさらに補う。また、コロナ禍で実施が可能か現段階では不確かではあるが、状況が許せば国外でも資料の調査を行う。研究課題について、研究期間3年間の調査・研究をもとに論考をまとめ、その成果を学会か学術誌で公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額8181円に関しては、本研究に必要な書籍購入に充てるには金額的に不足したため、翌年度分として請求した助成金と合わせて書籍購入のために使用する計画である。
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