研究課題/領域番号 |
19K00449
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
田久保 浩 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 教授 (20367296)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 18世紀文化 / sensibility / media / イギリスロマン派 / フランス革命 / イギリス文学 |
研究実績の概要 |
本研究はイギリスのイデオロギー転換期である1790年代の詩と出版メディア上の言説を検証するなかで、女性作家による感受性の文学が本質的に性差や社会階層を超える可能性を持っていたが故、女性蔑視の言説により、それと一体のものとして攻撃されたとい仮説を裏付けるため、1790年をはさむ半世紀ほどの期間のイギリスのメディアと文学状況を研究するものである。感受性の文学が新聞というメディアを通して「デッラクルスカ派」のブームを起こすことになった中心人物ロバート・メリーを出発点として、彼とフランス革命の理想について共感するメアリー・ロビンソンという二人の詩の交換に焦点を当て、そこに至るまでの18世紀後半の感受性の詩の発展の過程と、その後の政治的反動の時代の中で感受性の思潮がどう変遷して後のロマン派に受け継がれてゆくのかという、そこを岐路とした文化史の前後の状況について、特に女性詩人に注目して研究を進めている。哲学者ウィリアム・ゴドウィンは、ホーン・トゥックやジョン・セルウォールら政治的急進派に広い友好関係を持っていたことで知られるが、彼の日記資料から、フランス革命後、ジャコバン思想に傾倒していったメリーと1793年に知り合い、そのメリーから1796ごろメアリー・ロビンソンを紹介されたことがわかった。メリーとロビンソンとの結びつきを裏付けるものである。一方ウィリアム・ピットのスパイを用いた弾圧政策と革命に対する反動的思潮について示す資料として、大英資料館においてセルウォールのOn the Moral Tendency of a System of Spies and Informers and the Conduct to be Observed by the Friends of Libertyと題する50ページほどのパンフレットを発見し、研究中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
4年計画の1年目は、本研究の最大の焦点である1790年を境としての前後それぞれ数年間の期間における感受性および女性作家に対する言説の変化を、Robert MerryとMary Robinsonによる詩の交換に焦点を当てた研究を行い、現在、論文を執筆中である。この二人は1788年、1790年、1791年の3回にわたって互いの詩をたたえる詩を交換している。特に1790年のメリーの Laurel of Libertyにロビンソンが応えた Ainsi VA Le Monde, A Poemは、それぞれ力作であり重要である。二人は詩の技法、感受性についての受け止め方、また人間の尊厳やフランス革命が理想とする民主主義への共感において共通点が多い。ここで感受性と女性の声、さらに革命思想とが結びついた文学的関係に危機感を抱いたのがウィリアム・ギフォードで彼の『バヴィアッド』(1791)となって、感受性と女性、革命に対抗する声を一気に高めることになった。最近の20年間の間、メアリー・ロビンソンについての研究は盛んで多くの論文や研究書が発表されている。メリーについての論考は比較的少ない。特にメリーとロビンソンとの関係において両者の作品を分析する研究はまだないので、この研究の意義はある。昨年からのこのプロジェクトを進めることが当面の課題である。この論文においては、ロビンソンがメリーの詩のどこに魅力を感じたのか、二人の間の感受性や民主思想についての共通点と相違点を明らかにして、本研究課題のメディアと女性詩人との関係の理解につなげることをもくろむ。研究目的に向けてほぼ計画通り進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
第1に、現在執筆中のロバート・メリーとメアリー・ロビンソンとの間の詩の交換に焦点を当てた論文を完成する。同時にこの研究内容を口頭発表の形で先行して発表したい。 その後は当初の計画通り、「感受性」(Sensibility)の思潮が18世紀の出版文化の興隆とともに発展した過程を検証するため、Anna Latitia Barbauld, Anna Seward, Charlotte Smithらのロマン派詩人たちにも大きな影響を残した十八世紀後半の代表的な女性詩人の作品についても研究を深めたい。彼女らが独自の感性を発展させ、展開してゆくことでどのように感受性の文化と文学に寄与したかを検証する。 さらに、メアリー・ロビンソンの詩人としてのその後の活躍、および、その後、1900 年代に入り、英仏戦争の時代、摂政時代を通じて、政治改革を求める声は厳しく弾圧された時代に焦点を当てる。「感受性」について批判的な時代にあって、女性詩人たちの声はどう変化したのか、「感受性」が、Mary Tigh, Amelia Opie, Charlotte Dacreら、この時代の女性詩人の作品にどのように表現されているかを検証し、後代の作家たちにどのような影響を残したのか評価する。同時に本研究の第3年次に18世紀文学、ないしイギリス・ロマン派文学関係の国際学会にて、それまでの研究成果を発表し、そのフィードバックを、本研究の最終段階である、感受性の詩とイギリスロマン派との関係、さらには現代に通じるメディアの役割についての理解につなげることを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
図書購入時の割引等による余剰金。次年度研究費(物品費)と合わせて使用する計画である。
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