研究課題/領域番号 |
19K00449
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
田久保 浩 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 教授 (20367296)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 18世紀 / イギリス文学 / フランス革命 / ロマン派 / メディア / 詩 / 女性作家 |
研究実績の概要 |
本研究はイギリスのイデオロギー転換期である1790年代の詩と出版メディア上の言説を検証するなかで、女性作家による感受性の文学が本質的に性差や社会階層を超える可能性を持っていたが故、国民主義と結びついた女性蔑視の言説により、それと一体のものとして攻撃され、以降、これら詩人たちが文学史に埋没する結果を招いたという仮説を裏付けようとするものである。第2年目の2020年度は、これまでの調査による資料により、「デッラクルスカ派」のブームを起こした中心人物ロバート・メリー、そして彼とフランス革命の理想を共感するメアリー・ロビンソンという二人の間での詩の交換、特に1790年のメリーの Laurel of Liberty にロビンソンが応えた Ainsi Va Le Monde, A Poem に焦点を当てた論考「ロバート・メリーとメアリー・ロビンソン―フランス革命と感受性の詩」徳島大学発行『言語文化研究』に発表し(12月)、大学のリポジトリを通じて公開している(https://repo.lib.tokushima-u.ac.jp/115554)。その中で、フランス革命に人類の未来への希望を見る二人の詩人に、後のワーズワース、シェリーらのロマン派詩人と共通の特徴が見られることを指摘した。同時に、メリーやロビンソンに加え、同様にフランス革命に共鳴したシャーロット・スミス、ヘレン・ウィリアムズ、メアリー・ウォルストンクラフトを含めての研究をすすめている。1790年代のフランス革命をめぐるイデオロギー対立に関する言説ないしこの時代の思想史についての資料を収集し、研究するなかで、こうした作家たちにおける感受性の思潮と性の平等の思想を「ジャコバン主義」と一体のものとして攻撃する言説が1792年前後を境として非常な高まりを見せる状況を裏付ける材料がそろいつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が意図するイギリス・ロマン派文学を感受性の文学、その主要な担い手である女性詩人、そして感受性の思潮の帰結として人類同胞の理想を実現すべく勃発したフランス革命のコンテクストのもとにとらえるという視点は、近年の国際的な研究により、認識が広まりつつある。研究の第一段階においては、ロバート・メリーとメアリー・ロビンソンに焦点を当て、デッラクルスカ派の奇抜大胆な恋愛歌が感受性という特徴からフランス革命の理想へという政治的テーマへの発展を見せる過程を検証した。第2段階として、現在、取り組み中の課題は、(1)シャーロット・スミス、ヘレン・マリア・ウィリアムズを加えて、感受性の詩が後にロマン派と称されるワーズワースらに受け継がれてゆく過程について調べる、(2)同時に、これら詩人たちと政治観の近いメアリー・ウォルストンクラフトについても感受性の思潮と女性の権利の主張の側面から調査を進めることである。そしてこうした感受性の流れをくむ女性作家たちの声が、民主思想や同性平等論を「ジャコバン主義」として激しく攻撃する言説によりかき消されてゆく過程の全容の把握に努めている。研究の成果を国外の学会で発表する計画は新コロナウィルスをめぐる海外渡航の問題から延期を余儀なくされている。今年度も研究発表は国内学会の場を計画している。しかし資料収集については、予定していた海外図書館でのデータベース調査はできないものの、書籍の収集と調査とともに、オンラインで閲覧できる資料の調査により、研究課題の完成に向けて作業を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
1790年代において、感受性の思潮と男女平等を訴える声を「ジャコバン主義」として糾弾した保守的国民主義的思想は英仏戦争の時代、摂政時代を通じて、1820年代まで継続しイギリス社会に浸透する。上記の研究計画の第2段階に位置づける1790年代の「感受性」と男女平等、民主思想が厳しく抑圧される状況についての検証を2021年度中に進めることができれば、最終段階として、本研究課題の核心的問題である感受性の女性詩人たちと後のワーズワース、コールリッジ、キーツ、シェリーら、ロマン派の文学との関係について、結論的見解を提示する準備が整う。その結論とは、感受性の文学が保守思想による厳しい抑圧を受けたことから、新しい文学として自らを提示し、読者獲得を目指したのがロマン主義の文学であり、この新しい文学が受け入れられることは、同時に感受性の文学を否定し忘却することを意味するという見解である。以上の結論を主張するためには、感受性の女性詩人たちから受け継がれたロマン派詩人たちとの共通の特徴を明らかにすると同時に、抑圧的な時代にあって、女性詩人たちの声はどう変化したのか、「感受性」が、Mary Tigh, Amelia Opie, Charlotte Dacreら、19世紀初頭の時代の女性詩人の作品においてどのように変容していったのかを検証してゆく必要がある。以上に示した研究は、本課題の研究遂行に計画した4年間で尽くせるものでは決してないが、上記の結論について強い根拠を提示することができれば、感受性の理想の意義、18世紀女性詩人の重要性の認知という点において、貢献できるものと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由: イギリスで調査を行うための出張を予定していたが、新コロナウィルス感染の影響で海外渡航ができなくなったため、出張ができなかった。一部を物品購入に振り分けたが、予定していた額の使用に満たなかったため。 使用計画:次年度、国内学会発表に要する旅費および資料収集にかかる物品費と併せて使用する予定である。
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