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2020 年度 実施状況報告書

ジョウゼフ・コンラッド晩年の具象への回帰―パウル・クレーの境界線の美学をたよりに

研究課題

研究課題/領域番号 19K00451
研究機関滋賀県立大学

研究代表者

山本 薫  滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (50347431)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2024-03-31
キーワードジョウゼフ・コンラッド / 印象主義 / 写実主義 / 歴史小説 / パウル・クレー / 可視 / 美学
研究実績の概要

本研究テーマにの延長線上にあるコンラッドとクレー、及びコンラッドの『勝利』と音楽に関する論文2点は、当初アンソロジーに寄稿する予定だったが、クレーについてさらに補強する必要性があることと、2本目の論文に関しては若干の路線変更が生じたので、それぞれ加筆修正の上、次の英語の単著に独立した章として組み込むことにした。また、それらの特に絵画に関する研究から派生した次の論文として、デリダの「素描」と盲目性という観点から、コンラッド前中期の短編と長編の分析に取り掛かっている。
また、現在コンラッド晩年の歴史小説『放浪者』の翻訳がほぼ完了しており、これは、コンラッドが晩年個人的な語りを離れ、非個人的な語りによって「歴史」を描こうとしたことを、伝統への回帰としてではなく、「ものの見え方」(印象・表象)へのこだわりから解放された作者による「ものそのもの」への新たな接近の試みという観点でとらえ直す本研究の目的から『放浪者』を読み直し、解説を書く上で非常に有益であった。さらに、翻訳作業を通して、数年後に計画しているコンラッド研究の単著の一章として予定している『放浪者』論の準備として、コンラッド晩年の語り手について再考することもできた。これは、本研究のテーマ、コンラッド晩年の語りの技巧を、コンラッドと同じく「見せる」美学を宣言しながら、最終的には可視的な事物の写実的表現を超えようとした画家パウル・クレーに倣って、抽象された具象形象とも言うべき新たなリアリティ創造の試みとして再評価する本研究のテーマそのものについての考察を深めることに役立った。結果として、「新しい唯物論」の「もの」を巡る議論を先取りするコンラッドの思弁的性格を明らかにし、先駆的印象主義者というコンラッド像の修正するための本研究の材料はそろいつつある。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

次の英語の単著に独立した章として組み込むために、本研究テーマに直結するコンラッドとクレー、及びコンラッドの『勝利』と音楽に関する論文2点に加筆修正している。また、それらの論文から派生した研究として、デリダの「素描」と盲目性という観点から、コンラッド前中期の短編と長編を分析する論考の執筆の準備をすすめている。この論文は、英の研究者主導で編纂される「コンラッドと芸術」と題されたアンソロジーに寄稿する予定である。
また、現在進めているコンラッド晩年の歴史小説『放浪者』翻訳は完成に近づいている。この翻訳によって、コンラッド晩年の語りを、「ものそのもの」への新たな接近の試みという観点でとらえ直すという本研究の目的から『放浪者』を読み直し、解説を書く上で非常に有益だったが、これは、本研究のテーマ、コンラッド晩年の語りの技巧を、抽象された具象形象とも言うべき新たなリアリティ創造の試みとして再評価する本研究のテーマについての考察を深めることに役立ったばかりでなく、数年後に計画されているコンラッド研究の単著の一章として予定されている『放浪者』論の準備として、また、その次に訳すことが決まっているコンラッドの他の歴史小説群の翻訳と解説の執筆を進める準備作業となった。また、本研究の晩年の歴史小説に関する主張は、昨年英国で出版されたコンラッドの新しい伝記のコンラッド晩年の歴史小説に関する解説からも補強されることがわかった。その伝記の書評を書いたので、そのあとは、その伝記を日本語に翻訳する作業に着手する(出版社版権取得済み)。さらに、秋に計画されているコンラッド協会の国際大会の準備を協会会長として進めるとともに、その予行演習として、本研究のテーマ、コンラッドと諸芸術に関するオンラインセミナーに英国の研究者を招き、開催する準備を進めている。

今後の研究の推進方策

今後は、本研究テーマに直結するコンラッドとクレー、及びコンラッドの『勝利』と音楽に関する論文2点の現在加筆修正作業を進め、年内に国内外の他の研究者に草稿についてコメントをもらう。この2点の特に絵画に関する研究から派生した研究として、デリダの「素描」と盲目性という観点から、コンラッド前中期の短編と長編を分析する論考の執筆も進める。この論文は、英の研究者主導で編纂される「コンラッドと芸術」と題されたアンソロジーに寄稿する予定であるが、こちらはアンソロジジーの企画者に提出したアプストラクトに従って、論文執筆を本格的に始め、夏までに草稿を企画者に送り、コメントをもらう。現在進めているコンラッド晩年の歴史小説『放浪者』翻訳は、再校チェックを済ませ、作業最終段階に入るが、そのあと、コンラッド晩年の歴史小説翻訳企画の次作の翻訳作業に取り掛かる。これもまた、ジョウゼフ・コンラッドが晩年個人的な語りを離れ、非個人的な語りによって「歴史」を描こうとしたことを、伝統への回帰としてではなく、「ものの見え方」(印象・表象)へのこだわりから解放された作者による「ものそのもの」への新たな接近の試みという観点でとらえ直すという本研究の目的から『放浪者』その他を読み直し、解説を書く上で非常に有益であるとともに、数年後に計画されているコンラッド研究の単著の一章として組み込まれる予定である。現時点で本研究は、「新しい唯物論」の「もの」を巡る議論を先取りするコンラッドの思弁的性格を明らかにするという作業を論文、翻訳(と解説)の双方において着実にすすめているが、今後も確たる創作理念を持たない、萌芽期の印象主義者というコンラッド像の修正をより意識して、コンラッド晩年の歴史小説の翻訳及び解説執筆を進めていく。さらに、昨年英国で出版されたコンラッドの新しい伝記の書評を書いたが、そのあと日本語に翻訳する作業を始める。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2021 2020

すべて 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件) 図書 (1件)

  • [学会発表] ジョウゼフ・コンラッド『ノストロモ』読書会セミナー2021

    • 著者名/発表者名
      山本薫その他
    • 学会等名
      日本ジョウゼフ・コンラッド協会及び奇書研究会
  • [学会発表] Andrew Francis, Culture and Commerceで'The End of the Tether'を読む2021

    • 著者名/発表者名
      山本薫、設楽靖子その他
    • 学会等名
      日本ジョウゼフ・コンラッド協会
    • 国際学会
  • [学会発表] The Theme of 'the return(s)' in Conrad's The Rover2021

    • 著者名/発表者名
      山本薫その他
    • 学会等名
      第5回日本ジョウゼフ・コンラッド協会大会、Robert Hampsonセミナー
    • 国際学会
  • [学会発表] ジョウゼフ・コンラッド『闇の奥』セミナー2020

    • 著者名/発表者名
      安藤優、司会・導入山本薫
    • 学会等名
      日本ジョウゼフ・コンラッド協会
  • [図書] 『放浪者、あるいは海賊ペロル』2021

    • 著者名/発表者名
      ジョウゼフ・コンラッド 山本薫訳
    • 総ページ数
      377
    • 出版者
      幻戯書房

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公開日: 2021-12-27  

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