研究課題/領域番号 |
19K00454
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研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
中村 哲子 駒澤大学, 総合教育研究部, 教授 (20237415)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アイルランド / 飢饉 / 19世紀 / 小説 / 旅行記 |
研究実績の概要 |
2020年度において、ウィリアム・カールトンの飢饉小説に注目して研究を進める中で、作品中には、いわゆるジャガイモ飢饉と呼ばれる1840年代後半のアイルランド大飢饉が始まるよりも前の飢饉体験が反映されている点を認識するにいたった。そこで、2021年度にこの点を検討しはじめたところ、注目すべき言説の連鎖を認めることができ、1816年頃から1823年頃までの飢饉への視座が、1840年代後半以降の飢饉をめぐる言説へと変化を伴いながら受け継がれている点を捉えることができた。 これまで広く論じられては来なかったジョン・ギャンブルの1818年刊行の北アイルランドへの旅行記では、アイルランド北西部の飢饉の現状が宗教的・政治的な問題とも絡められて描かれている。そこには、1816年の夏の天候不順を契機としたジャガイモから穀物にいたるまでの被害と、その翌年のアイルランド全土に蔓延する飢饉と熱病がもたらした社会の疲弊が色濃く蔭を落としている。同様に、飢饉の影響を彷彿とさせる疲弊した環境の中でアイルランド人が生き延びる姿は、1818年に刊行されたシドニー・オーエンソンの『フローランス・マッカーシー』においても、アイルランド南西部を舞台に印象的に語られている。 この両作品では、地方における困窮の描写とともに、都会ダブリンでの質を異にした貧困が描かれている点も注目される。したがって、後年の作品群に見られるダブリンでの飢餓言説に注目していく必要もあると考えている。また、大飢饉の描写におけるジェンダーについては一定の定型といったものが指摘されているが、その原形を両作品に認められる点も意義深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初、2021年度には、1840年代後半のG. F. ボイル、A. ニコルソン、J. トゥークらのノンフィクションの言説についてより丁寧な読みを展開することから研究を開始する予定であった。しかし、W. カールトンの小説との関連で、1810年代、1820年代の飢饉について資料を読み進める中で、医療関連の言説との関連で飢饉の問題がクローズアップされて然るべきと判断され、研究の方向性を変えることとなった。結果的に、大飢饉の最中における言説についての検証が進んでいない状況となっている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究展開の過程で、飢饉の言説については、1840年代後半以降だけでなく、それより前から引き継がれている系統的な表現モードの重要性について認識することとなった。今後、2年計画にて、その表現モードを解き明かすことを視野に入れ、大飢饉より前の飢饉体験と大飢饉における飢饉体験が、どのように語り継がれているか、両者を行き来しながら諸作品において関連項目を辿る形でモチーフを明らかにしていくこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度においても国外での研究展開ができない環境が続き、結果的に十分に使用額を活用しての研究が叶わなかった。基本的には、テキストを基盤とした分析・考察を実施したが、研究の方向性について見極めながら進めざるを得ない状況となり、明確な支出の方向性について定められなかった点も一因である。 当初の予定では次年度が研究の最終年であるが、研究期間延長を予定し、次年度から2年間にて研究を取りまとめる方向とする。その過程で国外での研究展開を目指し、有効に本助成金を活用する方策を取る。
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