ジェームズ朝イングランドにおいて、注目すべきエンブレムブックの作者であるヘンリー・ピーチャムが、ジェームズ一世に献じた2種のエンブレム手稿と、それらををもとに出版されたMinerva Britanna(1612年)について、一貫して調査してきた。引き続き本年度は、Minerva Britannaに収録されたエンブレムが、忠実に写されて、大変美しいプラスターで作られた、brickling Hallのロング・ギャラリーに現存する天井装飾を実地にて調査することができた。この邸宅は、ジェームズ一世の廷臣が居住していたため、ピーチャムが王に直接献呈されたエンブレムブックでることも知っていたと思われる。どのようなエンブレムが採られているか、またどのように配列されているのか、実地にて確認することができた。目下、「警告」などの政治的な意味を含んだエンブレムや、神話神の描かれたエンブレムが複数あることぐらいしか把握できていないが、ピーチャムのエンブレムが、当時広く物質文化に浸透していたことがわかった。今後、この調査の成果を学会誌に発表するつもりである。 また、11月12日、ジェームズ朝イングランドになって、宗教的対立が収まっていないのは、ガンパウダープロット未遂事件になどに明らかだが、それらが王権表象にどう表現されたか、煉獄表象をキイワードにして、「東と西の死後世界表象ー煉獄と地獄を中心に」と題したシンポジウムを開催した。煉獄という装置がいかに東西の中世・近世文学に影響を与えたかについて、活発な議論が交わされた。
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