2022年度は、昨年度に引き続き、新型コロナウィルス感染症の影響により、計画していた海外調査は実施できず、日本国内においてオンラインを利用した関連資料の収集、及びジャック・イェイツ作の小説の精読、分析、文献調査を中心に活動を行なった。計画としては、1) ジャックの小説のテクスト分析を行い、2) アイルランド文芸復興との関わりを視野に入れつつ、サーカス、パントマイムの歴史・概要をまとめ、3) ジャック作品とこれら娯楽文化の関わりについて論文にまとめることとしていた。 1) については小説 The Amaranthers (1936)と The Charmed Life (1938) の精読・分析を試みた。しかし、どちらの小説もプロットの展開が断片的で、構造的にも言語的特徴においても通常の小説とは異なっており、難解であるため、きちんとした精読・分析には至っていないのが現状である。加えて、2) 3)を進めるにあたり、まずはヴァナキュラー研究として本研究の論をどのように展開するかを明らかにすることが大きな課題であることがわかってきた。そのため、軌道修正を行い、ヴァナキュラー研究が、民俗学や建築、言語、文学の各分野でどのように行われているかについて調査を行った。 研究期間全体を通じて、ジャック・イェイツが制作した様々な作品を収集し、彼の活動全体を概観することができた。そして、論文を1本と口頭発表を2回行い、ジャック・イェイツがヴァナキュラー文化を芸術表現の対象としてただ取り上げただけでなく、民衆の間でその文化がどのように機能していたかを記録し、作品において模倣しそれを知らしめるという重要な役割を担わせていたことを明らかにした。本年度で科研の研究期間を終えることになるが、十分な成果にはまだ至っておらず、今後も継続して論文執筆・発表を目指したいと考えている。
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