研究課題/領域番号 |
19K00459
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
澤入 要仁 立教大学, 文学部, 教授 (20261539)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アメリカ詩 / メルヴィル, ハーマン / 韻律学 / モダニズム / ロマン主義 / アメリカ文学史 / 南北戦争 |
研究実績の概要 |
本年度はハーマン・メルヴィルの詩作を中心にして研究を進めた。その結果、メルヴィルは詩史の流れから逸脱しているだけでなく、それを攪乱しようとさえしていたことが分かった。それゆえ、ロマン主義とモダニズムの間隙を埋める詩人といえる。 たとえば『戦争詩集』の序文や『ジョン・マー』所収の詩「イオリアン・ハープ」には、ロマン主義の代表的トポスであるイオリアン・ハープが使われていた。しかし、そこに歌われているものはロマン主義的な想像や空想ではなく、「現実の再現」であった。これはロマン主義の系譜に連なるそぶりをしながら、じつは詩史を超越しようとした態度といえる。 韻律にもメルヴィルの新しさが表れていた。勉強家のメルヴィルはミルトンやシェイクスピアの詩を研究していたが、それらの韻律を模すのではなく、定型から逸脱した新奇な韻律を試みていた。それはホイットマンのような自由詩ではないし、多くの場合、南北戦争という未曾有の状況を描くために類のない韻律が必要だったという背景もあるのだろう。しかし、たとえば詩「シャイロー」では行末欠損の行と行首余剰の行を並べることによって、2行が長い1行のごとく連なる効果を作り出していた。詩「カンバーランド号」では最終的に弱強格の部分が強弱格のリフレイン部へ収束してゆく仕掛けが施されていた。このような斬新な試みはロマン主義の詩人にはほとんどみられない。 もちろんメルヴィルのこのような創意工夫がアメリカ詩史に影響を与えたとは思われない。それは四面楚歌の孤軍奮闘であって、その同調者や後継者は現れなかった。けれども、メルヴィルのこれらの特徴には「新しくせよ」と唱えたパウンドに相通ずる姿勢がみられるといっていい。少なくともメルヴィルの詩作に関するかぎり、詩の革新は始まっていたようだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」と評価した。というのは、メルヴィルの詩作を研究することによって、そのモチーフや韻律の革新等を明らかにすることができ、その結果、詩史におけるメルヴィルの新しい位置を示唆することができたと考えられるからである。 たしかに本プロジェクトは、19世紀中期のアメリカン・ルネサンスと20世紀初頭のモダニズムの間隙を探る研究であり、アメリカン・ルネサンスを代表する作家とされるメルヴィルはそぐわないようにみえる。しかし(その詩作は1850年代には始まっていたものの)メルヴィルの作品が詩集として刊行されたのは1866年、1876年、1888年、1891年であって、本研究の対象とする時代と重なる。また、小説家メルヴィルはcanonicalな作家であるが、詩人メルヴィルは(近年、その研究が急速に進展してきたとはいえ)学術的考察が相対的に少ない。忘れられた詩作を発掘しようとする本プロジェクトにふさわしい対象といえる。 メルヴィルを含めることによって、本プロジェクトの弾みがついた。メルヴィルを起点とした新たな展開も期待できるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画としてはメルヴィルを含めない予定であったが、本年度のメルヴィル研究は本プロジェクトに新しい側面や新しい展開の可能性を付与した。しかし、新年度にはやはり当初のプロジェクトとの整合性を考えて研究を推進する必要もあるだろう。 元来の計画には大きな柱として米西戦争期の詩の研究が含められていた。メルヴィル詩の研究では南北戦争期の詩が中心だった。そこで新年度には、文学史に取りあげられてこなかった大衆詩のうち、米西戦争をめぐる詩を発掘し精査することによって、詩の「沈滞」期とされる時代に胎動していた詩人たちに光を当てたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 二度の海外出張を実施したが、いずれも折り悪く校務と重なってしまい、当初の計画よりも滞在期間を短縮せざるをえなかったため。 (使用計画) 次年度使用額は、本年度にやむをえず発生した未使用額であり、2020年度請求額と併せて、2020年度の研究遂行のため有効に使う予定である。
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