研究課題/領域番号 |
19K00460
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
和氣 一成 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 准教授 (10614969)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Octavia Butler / Kindred / trauma / slavery / postmemory / neo-slave narrative / testimony / diaspora |
研究実績の概要 |
2019年度の研究にを土台とし、発展させた研究である。先の研究ではHaile Gerimaの作品Sankofa(1993) において「黒人の主体形成におけるトラウマとしての奴隷制度の問題」を検証した。本論文ではその延長上において、同じように主人公がタイムトラベルの末、奴隷制度下の南部プランテーションにおいて, 自らの先祖の苦境を追体験するというOctavia ButlerのKindred(1979)に見られる「奴隷制度」の影をトラウマ理論に基づき、精査した。本作品では、黒人の主人公Danaと白人の夫のKevinが奴隷制度の過去をタイムトラベルを通して経験することになるが、その歴史的意義と彼らの歴史認識の変容に焦点をあて、公民権運動後の人種意識を歴史的な文脈を考慮に入れながら検証した。 主人公Danaは、奴隷としての自らの祖先の記憶/歴史を追体験することにより、自らの出自(白人農園主と黒人奴隷の混血)について新たな歴史意識(afro-futurism)を持った女性へと変貌を遂げる。本研究では、本作品をneo-slave narrativeの文脈から捉え直し、Danaの主体をdiasporaと定義し、postmemory的主体として記憶を紡ぐDanaの振る舞いは、同時に彼女の振る舞いを読み解く読者に affect的効果によるtestimonyの証言者という立場を強化する点を考察し、検証した。具体的には、Chasing the Spector of Traumatic Slavery: Poetic of Postmemory in Octavia Butler's Kindred(人文研紀要 (97),頁未定, 2021年 中央大学人文科学研究所)にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
“Dark tourism”を中心テーマに据えた先の研究と、今回の分析対象作品であるOctavia ButlerのKindred研究を接続することにより、トラウマとしての奴隷制度の表象の問題を、より大きな枠組みの中で分析するという視点を構築することができた。文学作品分析といった研究と、前回の映画分析による“slavery tourism”や “heritage tourism”などの文化事象の研究、さらにはアフロ・フューチャリズム、などの問題は、さらにJordan Peele監督のGet Out (2017)という21世紀における奴隷制度の表象の問題を議論する研究へと結実させ、論文"Black History as Black Horror; The Analysis of the Film Get Out through Trauma Theory"(早稲田大学 教育・総合科学学術院 学術研究69号 2021年 3月号)にまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度においては、前年度にコロナ禍のために海外発表などがうまく遂行出来なかったため、研究の順番を変えた、下記の研究を行うことを主眼とする。 Alice WalkerのMeridian (1976)を研究対象としていく予定。以下の3点を中心に研究を遂行し、本研究をより深めていく予定である。 1)本作品には一見無関係に思われる断片的な逸話が挿入され、全体として統一を欠いていると批評家たちにみなされてきたが、むしろその断片化された記憶/歴史の痕跡の中にこそ、普遍化され、都合よく歴史的に解釈されてしまうことを拒む複数のトラウマ/亡霊的記憶、転覆的な可能性を潜在させ胚胎していると捉え直す。2)国内の学会において発表する(コロナ禍の状況による)3)研究成果を論文として発表する
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、海外での学会発表などスケジュールに大きく変更をきたしたことが主な理由である。今後は国内において自らの論文を発表していく方向に切り替えて研究を継続していきたい。なお、本年度はToni MorrisonのLoveに関しての研究を進め、断片化した形式で 紡がれていく物語に奴隷制度がトラウマとして亡霊的に憑在しているさまを検証する予定である。
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