抑圧的な植民地からの独立以前に演劇運動の興隆を経たアイルランドの歴史的特殊性を理解するためには、国家・社会基盤に対する文化活動の影響を巡る多様な分析と知見の蓄積が不可欠であり、本研究が行った、過去のトラウマの告白とその共有が個人や共同体の変革の契機を生むという演劇的主題の共時的・通時的分析の意義もその点にある。本研究では、アイルランド演劇/文学における「告白」の表象とその受容の分析を通じて、言語の美的構築物が個人や共同体に救済をもたらすというテーマが持つ持続的訴求力を明らかにすると共に、戯曲の持つフィクションの力が現実に影響を及ぼすという思想が連綿と受け継がれている文脈の一端を明らかにした。
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