研究実績の概要 |
本研究の2023年度の成果は以下の3点である。 1)J. B. PriestleyのAn Inspector Callsの上演に関する日本語論文「再構築された「ストーリー」――『夜の来訪者』と連帯の可能性」を、『同志社大学英語英文学研究』105号(2024年3月)に発表した。この作品は、Michael BillingtonがState-of-the-Nation Play(以下SNPと略)の端緒に置いている劇作である。本作で、プリーストリーは階級問題が取り上げているが、階級そのものを打破しようとはしない。プリーストリーの社会主義が温和で中庸なものであることが理解できた。 2)David Hare, Howard Brenton, David Edgar, Trevor Griffithsらの1970年代の作品を取り上げ分析をした。かれらの1970年代の作品は、Billingtonが初めてSNPという概念を用いて評論を書くきっかけとなった劇作である。これらの劇作が背景にしているのは、1970年代の社会主義と左翼言説の行き詰まりである。戦後、保守党と労働党のあいだで結ばれたコンセンサス政治がほぼ無効となった現状を、これらの劇作が反映している。 3)1960年代後半から芽生え始める女性と同性愛者たちの権利拡張を訴える演劇活動とSNPの劇作のあいだにある緊張関係を討究した。The Women's Theatre GroupやGay Sweatshopなど、1960年代後半から活動をはじめる劇団は、マイノリティの権利運動の近傍にあり、当事者間の意識を高めるためにアジプロ的手法を活用する。上記の劇作家たちは、アジプロの劇団に関わりその限界を認識したあと、SNPにカテゴライズされる劇作を書いたことが分かった。その結果、マイノリティ演劇とSNPの差異と連続性を明確にすることができた。
|