研究課題/領域番号 |
19K00467
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
三浦 清美 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (20272750)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ロシア / 中世 / 聖者伝 / 民衆文化 / 奇跡 / 洞窟のフェオドーシイ / ラドネジのセルギイ / テオーシス |
研究実績の概要 |
本年度は、コロナ禍のためにロシアでの文献ならびに遺跡調査ができなかった。このため方向転換し、「ロシア聖人伝」のなかでもっとも代表的なものの一つである『キエフ洞窟修道院聖者列伝』の翻訳と解説論文の執筆に切り替え、2021年3月に京都の出版社である松籟社から、この書籍を刊行した。 『キエフ洞窟修道院聖者列伝』は、さまざまなジャンルからなる38の作品を収める文集で、11世紀末の聖者伝作家のネストル、12世紀末のウラジーミル・スーズダリ主教シモン、洞窟修道院の一介の修道士ポリカルプが主なる作者であるが、15世紀の編纂活動で今ある形になった。 この書籍は、この編纂活動の歴史を踏まえ、1931年にキエフの学者アブラモーヴィチが校訂したテクストを基盤に、『キエフ洞窟修道院聖者列伝』に収められた全38作品の翻訳とともに、この作品のジャンル的な特徴、文集全体の構成、作品群の分類、分類ごとの特徴を描き出したのち、ネストルによる主なる作品「フェオドーシイ伝」の魅力を論じ、シモンとポリカルプの作品に秘められた、「神の沈黙」に対する二人の作者の違いを際立たせ、修道士として上層部に属したシモンと、中下層に近かったポリカルプが、その魂の奥底で交わした「対話」の性格と構造を明らかにした。 この書籍は刊行されてから間もないが、レビューのために配布した研究者たちの反響を呼び、高く評価されたものと思っている。配算された研究費はほかにも、この刊行事業の準備のために使用された書籍、文房具、電子機器などに使用された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、ロシアの文書館でアルカイフ・ワークをする予定であった。2019年度は、この線にしたがってロシア、サンクト・ペテルブルグのロシア国民図書館でアルカイフ・ワークを行い、モスクワの瘋癲行者聖人である『ワシーリイ伝』についての貴重な書籍を収拾することができた。2019年度は年度末にもう一度ロシアに渡航する計画であったが、コロナ禍のためあきらめざるを得なかった。 2021年度になると、渡航が全面的に不可能になり、現地での文献と遺跡の調査はできなくなった。この意味で、研究計画は大きく修正されることになったが、しかしながら、修士課程入学から現在まで断続的に続けてきた聖者伝文学の研究の成果発表に方向性を切り替えることができた。ことに33年間研究をつづけてきた『キエフ洞窟修道院聖者列伝』は学術的刊行物として、2021年3月ついに日の目を見た。当初計画の変更があったものの、研究計画の方向転換は、成功裡に行われたので、「おおむね順調に進展している」と評価してもよいと思う。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度も、コロナ禍のためにロシア渡航によるアルカイフ・ワーク、ロシア人研究者の招聘による共同研究は、かなり難しいと判断せざるを得ない。このため、「ロシア聖人伝」に関する現在までの研究成果を、整理し、公開する方向性を維持していきたいと考えている。現在計画しているのは、『ラドネジのセルギイ伝』と『ベロオゼロのキリル伝』の出版である。 『ラドネジのセルギイ伝』は、14世紀の中ごろにモスクワの北東70キロのところに、三位一体聖セルギイ大修道院を創建した、ラドネジのセルギイの事績を、彼の弟子であったエピファニイ・プレムードルィと、当時東方正教の文化的な先進国であったセルビアからロシアに来たと考えられるパホーミイ・ロゴフェットが書いたもので、15世紀の第2次スラヴの影響の代表的な文学作品であると考えられている。この作品を、モスクワの研究者ドゥハーニナ氏の校訂テクストで出版したいと考えている。現在、校訂者と版権について交渉中である。 『ベロオゼロのキリル伝』は、『ラドネジのセルギイ伝』ののちに、やはりパホーミイ・ロゴフェットによって執筆された。ベロオゼロのキリルは、三位一体聖セルギイ修道院でラドネジのセルギイの薫陶を受けたのち、人跡のまばらなロシア北部のベロオゼロの居を移し、隔絶の生活を送った。隔絶された場所で、人間との付き合いを廃し、神とのみ繋がろうとしたロシアの修道精神を代表する聖者である。この作品は、ヴォドラスキン氏による校訂テクストを用いて、翻訳テクストの刊行を行いたいと考えている。版権については、現在交渉中である。
二つの作品を一つにまとめ、モスクワ・ロシアで発達した荒野修道院の修道精神についての解説論文を付したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、ロシアへの調査旅行、ロシアから研究者招聘による国際学会、研究会の開催を予定していたが、コロナ禍のために断念せざるを得なかった。そこで、今までの研究成果発表のために書籍(三浦清美編訳『キエフ洞窟修道院聖者列伝』松籟社、2021年)の発行に切り替えたが、それでも残額が余った。本年度も、コロナ禍のために海外への出張、海外からの研究者の招聘は難しいと思われるが、引き続き、研究成果の発表のために助成金を使用していきたいと考えている。
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