コロナ禍は一段落したとしても、ロシア・ウクライナ戦争のために十分な文献ならびに遺跡の調査ができなかったために、2020年度より当該テーマにおける研究成果の取りまとめに方向転換を行ってきた。2020年度に『キエフ洞窟修道院聖者列伝』、2021年度に『中世ロシアのキリスト教雄弁文学(説教と書簡)』、2022年度に『中世ロシアの聖者伝(一)-モスクワ勃興期編』を上梓したのに続き、2023年度は『中世ロシアの聖者伝(二)-モスクワ確立期編』を出版することができた。この本に掲載された作品は以下のとおりである。「悪魔に乗って旅したノヴゴロドのイオアンについての物語」、「ローマ人アントニイ伝」、「ボロフスクのパフヌーチイ伝」、「ヴォロコラムスク聖者列伝」、「ベロオゼロのフェラポント伝」、「ベロオゼロのマルチニアン伝」、「ワラアム修道院についての物語」、「ソロフキのゾシマとサッヴァーチイ伝」。巻末には、モスクワ確立期に起こった諸事件と本書に収められた作品との関係について述べた解説を掲載した。そのほか、ロシアに特徴的な宗教思想であるテオーシスに関する論文(「聖なる神の御母への冒涜とその具体的内容―プスコフ近郊メリョートヴォ教会壁画と中世ロシアの説教から」)、17世紀スムータ期の宗教的ダイナミズムについての論文(「「嫌われ者」を通して見る宗教戦争としてのスムータ」)を執筆した。そのほか、ロシア・ウクライナ戦争の歴史的起源について述べた論考(「[第2講]キエフ・ルーシーロシアとウクライナの分岐点」)、ロシアの統治者像についての対談記事(「ロシア正教―なぜツァーリは絶対的な力を持つのか」)を発表した。さらに翻訳して公表すべき作品は残っているが、それは今後の課題として残したい。概して、成果は上がったように思われる。
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