• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2019 年度 実施状況報告書

「死者との対話」-ケルト文化から見たH.ブロッホ『誘惑者』の文学と政治

研究課題

研究課題/領域番号 19K00468
研究機関新潟大学

研究代表者

桑原 聡  新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (10168346)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワードヘルマン・ブロッホ / ケルト文化 / 金・金鉱 / ドルイド / 群衆狂気論 / 人権 / 地上における絶対的なもの / ナチズム
研究実績の概要

本研究課題「『死者との対話』-ケルト文化から見たH.ブロッホ『誘惑者』の文学と政治」は,ブロッホの未完の長編小説『誘惑者』をケルト文化の視点から再解釈しようとするものである。ナチズムの時代に世界の調和を再獲得できるかという問いに答えることはブロッホの後半生の最大の課題であった。本研究課題は,1)『誘惑者』におけるケルト文化・神話の役割を明らかにし,ブロッホにおける「死者との対話」の意義を解明し,その上で,ヘルマン・ブロッホの著作全体における神話・神秘主義の意義を解明しようとする。同時に,2)政治的要素がしばしば作品から切り離されて現実の政治状況に関連づけられるブロッホ理解に対して,文学作品に描かれる政治的要素が作品構造の中でいかに扱われるべきかを,両者が明瞭に描かれている作品『誘惑者』において明らかにしようとする。
1)に関しては,この作品の描写におけるケルト文化との関連を精査した。「ケルト石」という表現、「金」「金鉱」「金採掘」とケルト人が名高い金採掘と金の加工術との関連,この作品で「大地の知」を代表とする者として描かれている「ギソン母さん」と「樫の木の知」を意味するケルトの祭司ドルイドとの関連、ギソン母さんの孫イルムガルトのケルト宗教的犠牲死との関連を指摘した。
2)に関しては,チロル地方と思われる山村で流れ者マリウスとその同伴者ヴェンツェルが引き起こし,村人を巻き込む群衆狂気が,ブロッホがこの作品と並行して構想・執筆していた「群衆狂気論」(未完)と密接に関連していることを明らかにした。「群衆狂気論」の「地上における絶対的なもの」の章でブロッホは「人権」を,人間が神の似姿であることから導き出す。ブロッホの思考では人権の法源は神にあるということである。ここに彼の神秘主義と政治思想が交わる接点がある可能性を指摘した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度において,H.ブロッホの神秘主義と政治思想が交わる接点を彼の独特の「人権」理解にある可能性を指摘できたことは今後の研究の方向を決める上で大きな意味を持つ。ブロッホの人権理解とは,すなわち,「群衆狂気論」の「地上における絶対的なもの」の章でブロッホが述べているように,「人権」が,人間が神の似姿であることに求めており,ブロッホの思考では人権の法源は神にあるということである。ブロッホの人権理解は,自然法的でもなく相対主義的でもなく,形而上学的である。
他方,「死者との対話」については,傍証はすでにいくつか見いだしているものの,完全に証明するにまでは至っていない。これは今後の課題である。
ブロッホのケルト文化との関係と彼の政治思想との関連について言えば,後者では大きな前進を図ることができたのに対して,前者については予想したほどの進捗を果たすことができなかった。
全体としては「おおむね順調に進展している」と評価する。

今後の研究の推進方策

課題は二つある。
1)ブロッホの政治・法思想が形而上学的である点についてさらに考察を進める。そのためには,彼の『群衆狂気論』および政治について書かれたブロッホの文章の精読が必要である。また,ブロッホの政治・法思想が形而上学的であることについては当時の政治・法思想との関連をも抑える必要がある。まずはウィーン生まれの同時代人であり,ブロッホ同様亡命したハンス・ケルゼンの思想との関係を明らかにする。
2)「死者との対話」のモチーフについては,ケルト文化に関する資料を博捜することが必要である。ケルト文化では魂の不滅が信じられていたことは,今までの神話研究が示すとおりである。さらに「死者との対話」のモチーフが明示されている資料を見いだすことを課題としたい。

次年度使用額が生じた理由

2020年4月初めに、中間報告的意味合いで,国際ワークショップを予定していたため,海外からの参加者の旅費に充てるため繰り越した。(このワークショップは,Covid-19のため2020年11月に延期することとした。)

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2019

すべて 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)

  • [学会発表] Die Wuenschelrute. Ein literarischer Topos in der deutschen Literatur: Von Joseph von Eichendorff bis Hermann Broch2019

    • 著者名/発表者名
      Satoshi Kuwahara
    • 学会等名
      中華人民共和国民中山大学
    • 招待講演

URL: 

公開日: 2021-01-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi