研究課題/領域番号 |
19K00468
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
桑原 聡 新潟大学, 人文社会科学系, フェロー (10168346)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヘルマン・ブロッホ / 群衆狂気論 / 人権 / 地上における絶対的なもの / 『誘惑者』 / ナチズム / 回心 / ケルト文化 |
研究実績の概要 |
令和4年度はH.ブロッホの政治哲学思想をより明確にするために、第一次世界大戦後からナチズムの時代に至る時代の民主主義擁護論を検討した。対象は、E.トレルチ、E.ブロッホ、H.ケルゼンである。トレルチとE.ブロッホが、差異はもちろんありながら、民主主義と人権の根拠を自然法に求めたのに対し、ケルゼンはそれを形而上学的として排しそれを「人間の魂の究極的な根源」すなわち「個人を社会に敵対させるあの反国家的原始本能」(『民主主義擁の本質と価値』18頁)に見る。H.ブロッホは彼らに対し人間は「神の似姿」であることにより「絶対的自由への希求」(SW. Bd.12.S.462頁)を与えられておりそのことによって「自然とその秩序」を超越するのであり、「プロメテウス的義務」(同126頁)を負うとする。 トレルチ、E.ブロッホが理解する「自然法」は、それが理性という神の法則に基づくというものである。「純粋法学」を提唱するケルゼンもまた「究極的な根源」という表現を使用していることから推察できるように、彼らは相対主義を脱し絶対的価値から人権を根拠付けようとする。H.ブロッホも同じである。しかしながらH.ブロッホは「自然法」という概念に代わって「プロメテウスの火」という比喩を好む。ゼウスに反逆し人間に火をもたらしたプロメテウスに因む。すべての権威を疑い自らの自由を求める人間の不屈の精神を言い表すための比喩であるが、また「地上における絶対的なもの」の節で触れられているように、自然法という語が「神に由来する」超越性を十分に表現しえていないという批判も込められている。(同472頁) トレルチ、E.ブロッホ、ケルゼンの法思想と比較考量することによって、人間が神の似姿であるとし法源が神にあるとするH.ブロッホの法思想はより闡明にその内容が把握されるのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度はH.ブロッホと同時代に生きたオーストリアの法学者H.ケルゼンの民主主義擁護論を検討することによってブロッホの政治・法思想をより明確にする予定であった。研究を進める内にやはり民主主義を支持した、同時代の神学者・宗教学者E.トレルチ、思想家E.ブロッホの法思想を考察の対象とすることによってH.ブロッホの政治・法思想の輪郭をさらに鮮明にすることができることに思い至った。成果は「研究実績の概要」に記した通りである。 それ故おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、『誘惑者』最後近くに描かれる「ギソン母さん」と殺された孫娘イルムガルトとの「死者との対話」の意味を明らかにし、この作品とブロッホの『群衆狂気論』との関連を明確にし、両者が未完に終わった理由を解明する。 Covid-19のために2年間延期せざるをえなかったワークショップを開催し、研究代表のテーゼの妥当性を研究者との議論を通して再検討し、論文執筆の準備をする。
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次年度使用額が生じた理由 |
Covid-19のために海外からの研究者を招聘することができなかったので、延長を申請し、許可された。令和5年度に実施する予定である。
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