研究課題/領域番号 |
19K00474
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
松田 浩則 神戸大学, 人文学研究科, 名誉教授 (00219445)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エロス / 書簡 / ポール・ヴァレリー / カトリーヌ・ポッジ |
研究実績の概要 |
ポール・ヴァレリー(1871-1945)にとって、1892年10月3日から4日にかけてイタリアのジェノヴァで経験したとされる精神革命の夜、いわゆる「ジェノヴァの夜」は彼のその後の執筆活動を考える上で大きな転換をもたらした夜と考えられている。従来の研究では、この「ジェノヴァの夜」はヴァレリーが後年になって、文学界における自分の立場をより強固なものとするために作り上げた神話だったのではないかと考えられてきた。ソルボンヌ大学のミシェル・ジャルティ教授はそれを1934年ごろと推察している。しかしこの推察のもとになっている文書に書かれている「嵐」「稲光」「新しい自己」などのイメージ群は、それより以前の1920年から28年にかけてのカトリーヌ・ポッジとの恋愛で苦しんでいたヴァレリーの書簡や日記帳『カイエ』にも使われている。とりわけ、1920年8月から10月にかけての記述には、カトリーヌによって、それまでの人生が根底から揺さぶられ、幼少時の思い出がよみがえり、生まれ故郷の港町セットが思い出される、そしてその連想から、同じ港町のジェノヴァが連続して思い出されるというくだりがある。つまり、「ジェノヴァの夜」という表現そのものは1934年前後に生まれてきたにしても、その「夜」の経験を想起させるさらに強烈な経験をヴァレリーはすでに1920年にしていて、それを言語化しようとしていたのではないかという推察が成り立つように思われる。そしてその経験は知性とエロスの二人の天使の相克を描く「法悦的啓示」という作品につながっていくのではないかとも推察される。以上のような点を中心とした口頭発表「カトリーヌと『ジェノヴァの夜』」を2022年11月12日に東京大学本郷キャンパスで行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の影響によりフランスへの資料収集ができない状態が続いていたが、その後の衛生状態の改善から近日中にフランスに渡り、資料収集を再開する予定でいる。しかしながら、この間、関連資料をじゅうぶんに読み込むこともできたし、口頭発表もしているし、論文執筆も順調に進んでいるので、成果はかなり上がっていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
すでに収集済みのカトリーヌ・ポッジの日記や、ヴァレリーとポッジの書簡集の研究を進めつつ、ヴァレリーとポッジの創作活動にお互いがどのように具体的な影響を与え合ったのか、二人の作り上げた知的共同体の姿を明らかにしていく所存である。研究の成果はすでに10万字以上の論文となっているが、さらに書き進めて単行本として出版する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
助成金に残が出たのは、ひとえにコロナ禍のために資料収集のための海外出張を控えていたことに原因があります。現在、衛生状況が改善されてきましたので、近日中の予算執行を考えていきます。
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