研究課題/領域番号 |
19K00476
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
平井 守 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (30305510)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 詩学 / 自由韻律 / 神話 / 所有と現存在 / 修辞性 / 戦間期ドイツ |
研究実績の概要 |
本研究は、マックス・コメレルの批評的、学問的業績の再検討を行うことを目的としているが、2021年度は、『詩についての諸想』の最終章「自由韻律の詩と詩人の神」、とりわけ「ゲーテの自由韻律」および「リルケのドゥイノ悲歌」の部分の読解と分析をおこなった。コメレルによれば、ゲーテとリルケは、「自由韻律の詩と詩人の神」という観点で、共通性を有するとともに対照的な存在であった。コメレルは、ゲーテの自由韻律の展開の内に、ゲーテの自我と世界の間の、「神話的人格」と「神話的地平」の間の関係の変容を見いだしている。すなわち、ゲーテ自身の「心」と、「世界(=自然)」とのかかわりがとりあげられ、その比類のない相互的な応答関係こそが、初期ゲーテの自由韻律で書かれた「讃歌」に通底するものであるとされ、ゲーテ自身の「灼熱する心」が、初期ゲーテの自由韻律詩における「詩人の神」であると、コメレルは主張する。一方、リルケにおいては、詩人は、「非-所有としての人間の現存在」を描き出さなければならないが、それを直接には見いだすことはできず、間接的に、人間のさまざまな「所有」を通して「人間の実存」を描くのであり、したがって、「否定」と「隣接するものの置き換え」がリルケの詩的基本戦略となるとされる。すなわち、リルケにおいては、「解釈された世界」としての「神話」に、「否定」と「置き換え」による意味の「関連」がとってかわるのであり、この「関連」こそが、神話なき時代の神話、神なき時代におけるリルケの「詩人の神」であると、コメレルは主張する。以上の読解と分析を通じて、これらの論考においてコメレルによって「自由韻律の神学的─より正確には無神学的─な意味」(アガンベン)が提示されていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、マックス・コメレルの戦間期から第2次世界大戦にいたる時期における批評的、学問的業績の再検討と、伝記的研究を行うことを、二本柱としている。前者の批評的、学問的業績の再検討としては、2021年度は主として、『詩についての諸想』所収の「自由韻律の詩と詩人の神」の章の読解と分析をおこない、その成果を、論文「コメレルの詩論(2)─ 自由韻律の詩と詩人の神 ─」としてまとめた。一方、後者のコメレルの伝記的研究としては、2019年度、2020年度にひきつづき、Briefe und Aufzeichnungen 1919-1944として公刊されているコメレルの書簡に関して、順次、読解と分析をすすめた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、2019年度より継続してきたマックス・コメレルの『詩についての諸想』における詩論研究に一定の結論を出すことができたので、2022年度は、ドイツ文学以外の作品を対象としたコメレルの著作、とりわけ「ドン・キホーテ」および「源氏物語」に関する論考をとりあげ、コメレルにおける「世界文学」の問題を、同時代のE.R.クルツィウスやE.アウエルバッハと比較しつつ明らかにする予定である。また、コメレルの主要著作である『ジャン・パウル』および『レッシングとアリストテレス』の読解と分析を進展させる。伝記的研究に関しては、2022年度、もしくは研究延長の申請を行ったうえで、2023年度に、マールバッハ・ドイツ文学アルヒーフおよびヴュルテンベルク州立図書館シュテファン・ゲオルゲ・アルヒーフでの現地調査をおこない、未公刊の書簡資料ならびに調査と分析を行うことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費に関しては、新型コロナウイルス感染症のためドイツでの現地調査が困難であったため。2022年度、もしくは研究期間の延長をおこなったうえで、2023年度における旅費の使用を予定している。また、物品費に関しては書籍購入の際の余った分であり、2022年度に物品費の一部として使用の予定である。
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