研究課題/領域番号 |
19K00477
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
大場 静枝 広島市立大学, 国際学部, 准教授 (60547024)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | カミーユ・ル・メルシエ・デルム / ブルターニュ民族運動 / ブルターニュ国民党 / 第一期PNB / 分離独立 / ロパルス・エモン / 『グワラルン』誌 / 『ブレイス・アタオ』誌 |
研究実績の概要 |
本研究は、19世紀後半から第二次世界大戦終結時までの約100年間において、ナショナリズム運動を行ったブルターニュ出身の作家、特にブルトン語とフランス語の2言語で作品の発表を行った作家たちの言動を調査・研究することで、ブルターニュ地方の民族運動と文芸運動の関係を明らかにし、それによってこの時代のブルターニュ文学の輪郭や特徴を描き出すことを目指している。 2021年度は、2020年度から調査・研究を開始した三人の詩人・作家(ブレイモール、カミーユ・ル・メルシエ・デルム、ロパルス・エモン)のうちブレイモールに続いて、カミーユ・ル・メルシエ・デルムの研究を終了し、その成果を「カミーユ・ル・メルシエ・デルムの詩に見る民族主義――分離独立主義の台頭と第一期PNBの誕生を背景に」にまとめた。この論文では、主に次の2点を考察した。すなわち、①ブルターニュの民族運動「エムザオ」が模索期を終え、異なる主義や主張が生まれる中で、地方分権主義の思想に物足りないものを感じた若者たちによって最初の分離独立運動が開始されたが、その時代背景とブルターニュ国民主義党(第一期PNB)のイデオロギーを考察した。次に、②第一期PNBを創設した詩人カミーユ・ル・メルシエ・デルム(1888-1978)に注目し、その前半生と初期作品、とりわけナショナリズム文学への転向を示す転換点となった二つの詩集(『《戦争》?…… 内なる反抗の詩』と『アイルランドよ、永遠なれ!――1916年の殉教者たちへの頌詩』)の分析を通して、ル・メルシエ・デルムの民族主義が彼の中でどのように生まれ、それが彼の文学的営為にどのような影響をもたらしたかを検討した。 三人目の作家ロパルス・エモンの研究については、現在も進行中である。2019年度のフランス出張で収集した両大戦間期の資料をもとに、この時代の分析を行い、論文を作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2021年度は、前年度までの研究が遅れていたため、まず同年度の前半で「ブルターニュ国民党(PNB)」の誕生と急進派勢力の台頭、直接行動の活発化など2020年度にやり残した調査・研究を行うとともに、個別の作家研究については、カミーユ・ル・メルシエ・デルムの研究を終わらせた。 同年度の後半では、第三段階の研究に着手した。第三段階の研究とは、ブルトン語の文芸雑誌『グワラルン』の創刊の背景、『グワラルン』の果たした役割、第二次世界大戦下のブルターニュの分離独立運動とナチス・ドイツとの協力、『グワラルン』の廃刊の経緯に関する調査と考察を行うことであるが、その中でブルトン語の文芸雑誌『グワラルン』の創刊の背景、『グワラルン』の果たした役割についての研究を行った。個別の作家研究については、ロパルス・エモンの研究を行い、現在、論文を作成中である。ただし、研究対象の期間は、当初予定していた両大戦間期から第二次世界大戦終結時までではなく、両大戦間期に限定して行った。 研究対象の期間を限定した理由は、新型コロナウィルス感染症の世界的な流行により、フランス出張ができなくなったため、第二次世界大戦中のブルターニュ地方のナショナリズム(分離独立運動、ナチスとの協力関係、『グワラルン』の廃刊の経緯、『ブレイス・アタオ』の論説文の分析等)とロパルス・エモンに関する資料や文献の収集・分析が十分にできなかったからである。そのため、研究期間を1年間延長し、それらの資料や文献の収集・分析を2022年度に行う予定である。 また研究活動と並行して、「ブルターニュの民族主義と文学」に関する研究書を公刊することも本研究課題の目的となっているが、こちらもフランスで資料や文献の収集ができなかったことから書物の内容を変更せざるを得ず、執筆が大幅に遅れている。2022年度に集中的に執筆を行い、遅れを取り戻す予定である。
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今後の研究の推進方策 |
延長期間である2022年度の研究では、2020年度~2021年度において現地での資料や文献の収集と分析ができなかったため、第三段階の研究(両大戦間期に誕生した「ブルターニュ国民党(PNB)」と急進派勢力の台頭、直接行動の活発化、両大戦間期及び占領下におけるナチス・ドイツとの関係など、ナショナリズムをめぐる時代背景を考察するとともに、ロパルス・エモンの作品及び文芸雑誌『グワラルン』やPNBの機関紙『ブレイス・アタオ』を分析することで、ブルターニュ地方のナショナリズムと文芸運動との関係を検証すること)を継続する。 2022年度の具体的な研究内容(予定)は、第二次世界大戦下のPNBと急進派勢力の台頭、直接行動の活発化、ドイツ占領下におけるナチスとの協力関係など、第二次世界大戦下のナショナリズムをめぐる時代背景を考察したうえで、ロパルス・エモンの作品及び文芸雑誌『グワラルン』やPNBの機関紙『ブレイス・アタオ』を分析することで、この時期のブルターニュ地方のナショナリズムと文芸運動との関係を検証することである。 この研究を遂行するため、新型コロナウィルス感染症の流行の状況も注視しつつ、可能であれば9月及び2023年2月~3月にフランス国立図書館(パリ)とブルターニュ地方の市立図書館及び大学図書館(ブレスト、レンヌ)において、文献の閲覧や資料の収集を行う予定である。なお、これまでと同様、Web 上で閲覧が可能な資料について、「研究資料としての使用」の立場を守り、かつ公開機関や関係者への使用の許諾を求め、出典を明示したうえで使用する。これまで築き上げた個人的な信頼関係により取得した資料や文書については、その好意的な協力に感謝し報いる意味でも、取り扱いには十分に留意する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、約138万円の残額が生じた。これは以下の2点の理由による。 ①2019年度からの繰越金(2020年3月下旬のフランス出張の中止による)に加え、2020年度及び2021年度に予定していたフランスでの文献調査・資料収集が、新型コロナウィルス感染症の世界的な流行の影響ですべて中止になったことから、旅費に余剰金が生じた。 ②上記のフランス出張が中止になったことで、フランスの国公立の図書館における書籍や文献の複写・複製費等の費用として予定していた金額が使われなかった。 2022年度は新型コロナウィルス感染症が終息していれば、フランにおける現地調査期間を当初の予定よりも延長し、次年度使用額は文献の複写・複製費用及びフランス出張旅費に充当するとともに、「ブルターニュの民族主義と文学」に関する研究書の出版助成費に充てる予定である。
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