まず資料調査という点については、コロナ・パンデミック以降かなわなかったドイツでの資料調査が2023年9月に実現した。ベルリン自由大学諸図書館を中心として、Topographie des Terrors図書館などでも必要文献の渉猟にあたった。なかでも、目下翻訳に携わっているジャン・アメリー関連資料、そしてこの数年来の「第二の歴史家論争」などとも呼ばれる諸議論に関して、日本の図書館やWeb上では入手できない資料を集めることができた。また古書店でも第二次大戦直後の言論状況をめぐる資料に関して、それなりの成果を収められた。 これにもとづいて、資料分析作業も進められた。とりわけ、2000年代に入って徐々に拡がりをもち、2020年前後よりいっそう激しさを増した「新しい反ユダヤ主義」をめぐる議論はすでに厖大な量にのぼるが、これらのなかの重要な論の大方を通覧することができたのは、本年度のおおきな収穫となる。ただしこれを論文として発表することは年度内にはかなわなかった。 本研究は、開始当初1945年のドイツ敗戦前後から1960年代初頭までを対象範囲として想定されていたものの、5年間の研究遂行のなかで、1960年代末から1970年代の議論についても詳細に調べる必要性が生じ、さらに、2020年前後より顕在化して現在進行中の事態とも直結しているため、ここにも焦点を当てた研究へと対象が拡張することになった。プロジェクトそのものが予定していたより広範囲となったため、これまで単発的なかたちでしか成果を発表できていないが、その準備は進められており、これは近々にまとめて学界に問う予定である。また、この5年間の研究のいわば「副産物」として、トーマス・ベルンハルト翻訳の書籍2点を刊行したほか、ジャン・アメリーのテクストならびにRAF関連文書の日本語訳も行われ、こちらは2024年度内に書籍として刊行される予定である。
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