研究課題/領域番号 |
19K00486
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
有馬 麻理亜 近畿大学, 経済学部, 准教授 (90594359)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ピエール・マビーユ / アレクシス・カレル / 人間の科学 / ホーリズム |
研究実績の概要 |
本研究は、第二次世界大戦中において知識人は科学とどう向き合ったのかを捉えたうえで、戦中から戦後にかけて顕著に現れる「反文明的思考」と呼びうる思想(オカルティズム・秘教・魔術・神秘主義などへの関心)が一部の科学者にも見られることから、科学的精神と反文明的思考はどのように両立するのか、この現象は戦争と関係があるのかといった問題に取り組むものである。 当該年度は、シュルレアリスムに参加した医師ピエール・マビーユの思想をまとめた論考(研究ノート)を発表した。彼は医学を実践する科学的精神を有するだけでなく、オカルトや民間伝承、魔術にも精通しており、本課題が明らかにしようとする問題のモデルとして最適であるからだ。 マビーユの医学者としての活動と著作を分析した結果、興味深いことがわかった。それはアレクシス・カレルと彼のベストセラー『人間、この未知なるもの』の関係である。カレルとマビーユはそれぞれ「人間の科学」の確立を目指した。カレルは優生学的断種を推奨しつつ社会学的階級から「生物的階級」へ移行を主張し、ナチスに好意的に受け入れられたり、ヴィシー政権の援助を得て研究所を開設したりした。マビーユはカレルと共通の問題意識を持ちつつも、人種の優劣といった思考を拒否し、別の解決を模索する。これらの問題意識が『人間の構成』や『エグレゴール』といった作品に現れている。さらに文献調査の結果、両者は類型学や形態学の研究者サークルを介して、間接的に関係があることもわかった。さらに彼らの医学者としての知的関心が、今日の研究において、生物医学における「ホーリズムholism」と無関係でないことも判明した。この思想は特に30年代に再流行していることから、今後は「医学ホーリズム」と戦争やファシズムとの関係、またこの医学思想がマビーユの思想にどのような影響を与えているのかを調査していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度は政治的イデオロギーと科学の関係が当時いかなるものであったのかという問題にも取り組む予定であった。この点に関しては、上に記載した研究によって、ファシズムと無関係ではない、医学者のサークルにマビーユが直接的・間接的に接点があったこと、マビーユが彼らと関係を持ちながらも、反ファシズムの政治活動をしていたことなど重要な発見がいくつかあった。 しかしながら、新型コロナウイルスの感染拡大により、文献調査のために海外に行くことができなかったことから、大掛かりな資料の調査ができなかった。また、研究会活動に支障がでたり、急激な業務の増加から一時期は予想外に研究のエフォートに影響を与えた。その結果、成果発表のタイミング逃したため、やや遅れている。さらに、生物医学におけるホーリズムといった、新しい問題が浮かび上がったことから、この分野に関する先行研究調査も必要となる。次年度も海外渡航が厳しいとなると、さらに研究が遅れる可能性は否定できない。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度に引き続き、政治的イデオロギーと科学の関係が当時いかなるものであったのかという問題に取り組む予定である。特に、マビーユが人民戦線系の雑誌・新聞に深く関わっていることから、当時の編集者や執筆者たちとの関係を分析したい。また、マビーユが関心を抱いた、民間伝承・オカルティズム・魔術・秘教といった、いわゆるカウンターカルチャーと彼の医学者として思想の関係を分析する。こうして得た成果をもとに、マビーユという人物をモデルとして、科学的精神とカウンターカルチャーの関係、さらに当時のイデオロギーや戦争の影響などを明らかにする予定であるが、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらないことから、今後も調査活動に支障がでる可能性が高い。現時点でできることといえば、さらなる資料収集の必要がない問題から分析を進めていくしかない。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスによる渡航制限から、予定していた海外での資料調査ができなかったため、旅費としての出費がなかった。その分、本年度の海外旅費(可能であれば)、あるいは資料の複写や購入に使用したいと考えている。
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