研究課題/領域番号 |
19K00489
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
今井 勉 東北大学, 文学研究科, 教授 (40292180)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フランス文学 / 文学と芸術 / 生成論 / ポール・ヴァレリー |
研究実績の概要 |
本研究は、フランス第三共和政期の代表的詩人思想家ポール・ヴァレリー(1871-1945)の芸術論をめぐって、フランス国立図書館所蔵の手稿や書簡に遡る生成論的な読解を深めると同時に、19世紀・20世紀の諸作家による芸術論との比較を試みることによって、その文化史的な位置を明らかにすることを目的とする。作品の制作と受容、天才論、前衛と後衛など重要な問題が集中するヴァレリーの芸術論について、その生成を同時代の文化状況に探ると同時に、19世紀のボードレールから同世代のプルーストを経由して20世紀のバタイユに至る諸作家の芸術論と精密に比較対照する作業を通して、ヴァレリー芸術論を近代文芸批評史百年のパースペクティヴのなかに明確に位置づけることが本研究の最終的な目標である。 2019年度は本研究に関連する研究文献の収集を進めたほか、2019年9月27日から三日間にわたって南仏セート市のポール・ヴァレリー美術館にて開催された第9回「ジュルネ・ポール・ヴァレリー」で招待講演を行い、ヴァレリーの芸術論の根幹をなす「大芸術」の概念を分析した(論集は2021年秋にフランスの出版社ファタモルガーナより刊行の予定である)。また、12月21日に京都大学人文科学研究所で開催されたシンポジウム「ポール・ヴァレリー〈恋愛書簡〉を読む」において、ヴァレリー青年期の恋愛関連草稿を紹介し、その意義を文化史的な視点もまじえて考察した。シンポジウムの論集は、森本淳生・鳥山定嗣両氏の編により、2020年3月に『愛のディスクール』というタイトルで水声社より刊行された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポール・ヴァレリーの芸術論の文化史的研究という総合テーマに即した研究発表をフランス本国のシンポジウムで招待講演のかたちで実施できたことは望外の幸せであった。この講演に当たっては、フランスの第一線の研究者から、1920年代のベンヤミンの文学活動との関連など、貴重な助言を受けることができたほか、いくつかの興味深いパースペクティヴにも触れることができた点で貴重であった。資料面でも、本研究テーマを深めていくうえで有益な参照となるはずの新たな研究文献が刊行され、それらを入手できたことが意義深い。以上から、本研究課題の進捗状況については、おおむね順調に進展していると判断することができる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度も2019年度に引き続き、関連資料の収集と分析に励み、研究活動の拡大深化に努めたい。具体的には、ポール・ヴァレリーが親しく付き合った画家ドガを中心に、ドガの友人であった画家・発明家・絵画収集家のアンリ・ルアール、さらにルアールの子供たち、さらには孫たちをも視野に入れた芸術家一族の肖像を、フランス第三共和政から第五共和政に至る文化史の興味深い一例としてたどってみることを計画しており、その案内者として、アカデミー・フランセーズ会員の小説家ジャン=マリー・ルアール(アンリ・ルアールの曽孫)の著作から数点を読解することを直接的な課題として考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画において予定されていたフランス国立図書館での資料調査旅行が学内必須業務の関係で実行できなかったため、この金額が生じた。次年度では、前年度に実施できなかった分も含めて、資料調査旅行を実施する方向で検討している。
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