研究課題/領域番号 |
19K00491
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
合田 陽祐 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (20726814)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 象徴主義 / 小説の理論 / 心理学 / デカダンス / 未公刊書簡 / 定期刊行物研究 / 世紀末 / 出版社と編集者 |
研究実績の概要 |
2019-2020度の研究実績としては、学会発表1件と査読付き論文1本があげられる。11月末に日本フランス語フランス文学会東北支部会において、1890年代の「象徴派の小説」を対象とする研究発表を行った。この発表では、レミ・ド・グールモンの小説『シクスティーヌ』を、イデアリスムや19世紀末の心理学の言説との関係から取りあげ、分析を行った。その後、この発表を論文「レミ・ド・グールモンの『シクスティーヌ』再読 心理学の疾病研究の活用法を手がかりに」としてまとめた。同会の査読を経て、3月に支部会誌への掲載が認められた。上記論文は6月に刊行される。 本年度はフランス・パリ市での夏期在外研究を実施し、フランス国立図書館の分館を中心に、事前調査でリストアップした、世紀末の新聞を中心に電子化作業を行った。特筆すべき成果として、象徴派とデカダン派の作家、編集者、出版社たちの未公刊の書簡資料の調査と電子化作業を行うことができた。 本年度に執筆を行い、今後刊行される出版物としては、共著論集の『マラルメの新世紀』(仮題)所収のアルフレッド・ジャリとマラルメに関する論文があげられる。同書は2020年度内に刊行予定である。 なお報告者は、19世紀末の小説の理論的変遷を明らかにするべく、自然主義、デカダンス、象徴主義の専門家3名に声をかけ、彼らと共同して、「世紀末小説再考 文学とその「外部」」と題するワークショップを、2019年春より企画してきた。このワークショップは審査を経て、日本フランス語フランス文学会の2020年度春季全国大会で実施される予定であった。だが、ウィルスの流行により同大会が中止となったため、同年の秋季大会で実施する運びである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年に入ってからは、ウィルス流行により、外国書籍の購入ができなくなった。二年度目以降の研究に影響を及ぼすことが予想される。 初年度はおもに、象徴派やデカダンスの小説家たちによる心理学の疾病研究の活用法について調査し、一部を刊行することができた。個々の小説の読解や、ワークショップ開催のための先行研究の整理に多くの時間を割いたため、雑誌記事の調査は、想定していたよりも進まなかった。 本研究では、先行研究の手薄な作品の個別分析が作業の前提となる。本年度に分析を進めた1890年前後に刊行された小説では、象徴派のグループ内にいた作家でも、自然主義的な作風をとどめているものがあり、同じ文芸誌内でも、自然主義、観念論、神秘主義と傾向が多様化し、ばらつきが見られることがわかった。文芸誌の単行本部門が設置される前の段階では、一部の例外を除いて、当事者たちの間でも「象徴派の小説」はあまり意識されていなかったのである。 また、先行研究の一部に見られる、詩と小説といったジャンル間での考察は、本研究にとってあまり効力を発揮しないことが判明した。そこで、小説ジャンル内での理論や技法の変遷について、これまであまり指摘されてこなかった細部を中心に、特徴を整理するよう努めた。
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今後の研究の推進方策 |
外国書籍の購入ができなくなった点と、二年度(2020年度)内の海外での在外研究を実施できる可能性が今のところ乏しいので、前年度を引き継ぐかたちで、新たに1890年代中盤までの小説の分析を行う。 雑誌記事の検討については、今年度は、報告者がこれまで取り組んできた『メルキュール・ド・フランス』に加えて、『プリューム』と、できれば『エルミタージュ』を射程に含めて、実施していく。この二誌については、先行研究が手薄である。たとえば『プリューム』に関しては、ポスター芸術についての論文は多いが、『白色評論』に比べて、文芸批評を扱ったものはほとんどない。これに集中して取り組むことで、先行研究の欠如を埋める。 また、アルフレッド・ジャリが1898年から99年にかけて執筆した小説作品について、論考を準備中である。この論文では、新しい資料を用いて、ジャリが寄稿していた雑誌や新聞との関係にも触れている。 前述したように、日本フランス語フランス文学会の秋季全国学会では、「世紀末小説」をめぐるワークショップにおいて、司会と研究発表を担当する。本研究課題の意義を、近接する研究者たちと共有できるよう、総合的な観点から議論を展開するよう努める。
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