研究課題/領域番号 |
19K00491
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
合田 陽祐 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (20726814)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 象徴主義 / 小説の理論 / 雑誌の共同体 / デカダンス / 世紀末 / 定期刊行物研究 / 小説の象徴主義 / 出版社と編集者 |
研究実績の概要 |
本年度の業績としては、日本フランス語フランス文学会の支部会論集に投稿した論文1本が刊行された。また、九州大学の文学部の論集に論文を1本投稿し、刊行された。研究発表としては、日本フランス語フランス文学会の全国学会においてワークショップを企画し、司会進行とともに、パネリストとしての発表も行った。 支部会の論集に掲載された論文では、象徴派の小説家・理論家であるレミ・ド・グールモンについて論じた。グールモンが1890年に刊行した小説において、心理学者テオデュール・リボーの言説を参照しており、それを小説の主人公の人物造形に活用していることをくわしく論じた。 上記ワークショップ(「世紀末小説再考――文学とその「外部」」)における発表では、グールモンとアルフレッド・ジャリの1890年代の小説を例に、小説の主人公と他者とのコミュニケーションに注目した。両者の関係性が、作者と作者が想定する読者との関係性のメタファーとなっていることを明らかにした。 九州大学の論集では、本課題のベースとなる論文(「小説における象徴主義の記号理論」)を執筆した。カルロ・ギンズブルグの徴候論を参照しつつ、自然主義小説との比較をとおして、象徴派に固有の記号理論について論じた。 今後公刊する予定の論文の準備作業としては、雑誌(『白色評論』と『メルキュール・ド・フランス』、『プリューム』)の書評記事を中心に、作家間のやりとりや交流を調査した。とりわけ『白色評論』に関する調査に本格的に着手し、作業を一定量進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の進捗具合となった理由として、昨年度コロナ禍で海外渡航ができなかったため、現地資料館での未公刊書簡等の調査ができなかったことがあげられる。また、本課題とかかわる翻訳の作業にも一定の時間をあてることになった。 渡航ができなかった期間は、アンソロジー収録の小説や、電子サイトでダウンロードした小説の読解を進めた。 上の欄で記した学会でのワークショップは、当初は2019年度春に開催予定だったものだが、コロナ禍で延期になっていたものである。多くの研究者たちに、本研究における問題提起を提示することができた。発表では、従来「象牙の塔」に閉じこもるイメージが一般的であった象徴派やデカダンスとは異なるイメージを提示することができた点で、一定の評価を得ることができた。 論文「小説における象徴主義の記号理論」は、上記ワークショップの発表とは内容が異なるものである。象徴派の小説の特徴を、同時代の小説との相違点からくわしく論じることができた。また上記のワークショップの発表では触れられなかった点についても、補足的に説得的に示すことができた。 現在では、象徴派時代のジャリに関する論文と、1890年代の白色評論の編集部に関する論文を準備中で、これらは2021年内に刊行予定である。 上記の作業を通して、2021年度の課題遂行に向けての橋渡しをすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
上の欄で述べた未公刊書簡の調査については、ウイルス流行の収束具合にもよるが、実施できる場合、2021年度終盤以降になるはずである。当面は、本課題の実施前に調査し、写真撮影を行った、まとまった分量の象徴派の作家たちの書簡があるため、その資料の精査を行う。 今年度は、来年度より開始する共同研究のための準備作業を行う必要がある。海外研究者たちとのあいだで、作業内容や進捗具合について協議を行う。そのさい情報交換をおこなうことも大きな意義となる。 単著論文については、現在作業中の『白色評論』にかんする論文を完成させる。また、昨年度執筆した総論で提示した個別の内容を具体的に検証すべく、論文をあらたに執筆する。論文では、「批評しあう集団」としての象徴主義共同体を浮き彫りにすることを目的とする。 今年度よりスタートした象徴主義をめぐる共同研究(「「現代の起点」としてのフランス象徴主義の総合的研究」)では、執筆者は雑誌やメディア部門を担当している。9月に総論的な発表を研究会で行い、その内容を論文としてまとめることになる。 以上の作業をとおして、2020年度の進捗の若干の遅れを取り戻すことになる。
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