研究課題/領域番号 |
19K00491
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
合田 陽祐 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (20726814)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 象徴主義 / 雑誌 / 世紀末小説 / 共同体 / 詩人 / ナラトロジー / 編集部 / デカダンス |
研究実績の概要 |
今年度は二つの発表と二つの論文を執筆した。そのほかに対象となる雑誌や小説の分析を進めた。本年度は、雑誌としては『プリューム』とその単行本部門を検討した。作品レベルでは、小説家としてのギュスタヴ・カーンや、ジャン・ド・ティナンといった我が国では知られていない小説家の作品を中心的に検討してきた。 最初の発表は京都大学の象徴主義研究会でおこない、象徴派の小雑誌について見取り図を提出することができた。おもな対象としたのは90年代の小雑誌で、90年代に小雑誌の呼称がrecueilからrevueへと変化し、それに伴い概念的に変化が生じていることを示した。我が国では90年代の雑誌についてはまったく検討されておらず、80年代から90年代にかけて、小雑誌が被った変化を明らかにできたことには大きな意義がある。 二つ目の発表では『プリューム』誌主催の定期イベントについて論じ、前衛若手グループが制度的にどのように形成されたのかを明らかにした。この『プリューム』を対象とする論考は日本では初めてとなる。同誌を紹介するとともに、90年代文学場の変容を小雑誌の立場から明らかにした点に重要性がある。この発表を論考の形でまとめて、学会誌に掲載した。割愛した部分については別の論文を執筆中である。 もう一つの論文は、レミ・ド・グールモンによるマラルメ受容について論じた(マラルメ論集に収録)。グールモンは90年代の小雑誌の中心人物であり、この側面は我が国ではまったく論じられてこなかった。『メルキュール・ド・フランス』など、90年代の小雑誌において、グールモンがどのような角度からマラルメを論じ、マラルメのいかなる美学を継承したのかを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に発展があったのは、上の欄で述べたように、対象の一つである『プリューム』誌を詳細に検討できた点である。ただし同誌はリプリント版では削除されている部分があり、そこに重要な掲載されているという問題点があった。その部分を調べるには渡仏する必要があったが、今年度もコロナ禍でそれができなかった。 また、小説の分析に一定の時間をさけたことは大きな収穫のひとつである。当初より予定していたギュスタヴ・カーンやカミーユ・モークレールの作品に加えて、ジャン・ド・ティナンの作品を検討することができた。とりわけティナンの『耽美主義者たちの女主人』はモデル小説になっており、『メルキュール・ド・フランス』や制作座など当時の文学場の重要な機関が数多く登場するため、重要な作品である。この作品の分析成果を単独で発表、ないしこの作品に一定の分量をさいた論文を発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度以降に重視すべきは、未刊行の資料をいかした研究である。とりわけ雑誌編集部の未刊行資料(書簡、帳簿など)を電子化したうえで活用する必要がある。 本課題を発展させるかたちで、筆者は2022年4月よりフランスでの研究を開始したが、すでにカーンのIMECで『メルキュール・ド・フランス』誌(編集長アルフレッド・ヴァレット宛)の未刊行資料および帳簿について、第一回目の大規模な電子化作業を終了させた(写真撮影が禁じられているためパソコンに手打ち入力でおこなった)。 今後は、この資料を詳細に分析してセミナーでの発表をおこない、それを論考の形にまとめて発表していく。これと並行して、ジャック・ドゥーセ文学資料館所蔵のヴァレットの書簡の複写が完了したので、この資料の分析も順次行っていく。 こうした未公刊資料の分析を加えることで、従来の小説研究(ナラトロジーや登場人物に関する研究)とは異なる形で、象徴主義小説の全体像に迫ることが可能となるだろう。 今後の課題としては、単なる資料データの提示に留まらぬよう、理論的な考察を深める必要がある点があげられる。研究者たちを招集してセミナーを最低2か月に一度の頻度で開催し、意見交換やアイデアと情報の共有をおこなっていくことで、理論的側面を補強していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で予算の使いきりに困難が生じた。残額は次年度に書籍代に使用する。
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