研究課題/領域番号 |
19K00491
|
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
合田 陽祐 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (20726814)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 象徴主義 / 雑誌 / 世紀末小説 / 共同体 / 共著作品 / 文学社会学 / 編集部 / デカダンス |
研究実績の概要 |
今年度は文科省の国際共同研究基金による在外研究を実施した。2本の査読付き論文、1本の共著論文を発表し、3本の研究発表を行った。このうち共著論文は、前年度に刊行予定であったマラルメの論集の公刊が遅れたもので、新たに得られた成果として小説に関する一章を追加で執筆した。 論文では、小説の象徴主義を創始したポール・アダン(1862-1920)を軸に据えた考察を展開した。1本目の論文で、社会学的な視座から、文学場とりわけ小雑誌・新聞場への同作家の位置づけを行ったのち、2本目の論文では、ジャン・モレアス(1856-1910)と共同執筆した『グベールのお嬢様方』(1886)を演劇的小説の観点から分析し、1890年代の作品との連続性を示した。 2022年度はフランスに滞在したこともあり、すべての発表をフランス語で行った。1つ目の発表では、現在準備中の共著『象徴主義雑誌の黄金期における前衛小説(1885-1905)』の構成やテーマについて議論した。同著を執筆する共同研究者たちを前に、先行研究との相違点を軸に方針と意義を述べた。2つ目の発表は、1890年代の小説家アルフレッド・ジャリの生誕150周年記念を機に、同作家にゆかりのあるサン=ブリウーで開催された記念式典の場で行った。「ジャリによる愛」のテーマのもと、時期によりジャリの美学が少しずつ変化することを示した。3つ目の発表では、出版社との関係を中心に、『サンボリスト』グループの活動、その共同作業と出版活動の検討を行った。同グループは象徴主義を創始した小説家たちを多く抱えており、1890代の象徴派小説の開花にもっとも貢献した重要な作家の集まりである。 上記の発表後、現在では『独立評論』のグループについて、引き続き同様の観点からの検討を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
象徴派小説の創始者であるポール・アダンの初期作品を分析することにより、研究が大きく進展した。フランスのアラスにある同作家のアルシーヴにて調査を行い、多くの未公刊資料や往復書簡を閲覧・複写することもできた。 他方で、予定していたカミーユ・モークレール(1872-1945)の検討は、ジャック・ドゥーセ資料館が収蔵する大量の書簡集の調査のみに留まり、作品分析が思うように進められなかった。同作家の『処女なる東洋』(1897)を、アダンの『マレーシアだより』(1898)と比較検討する作業を現在実施中である。年度のじゃっかんの遅れの原因は、同資料の一時閉館の直前に複写した、ラシルド(1860-1953)の膨大な書簡集の整理に時間を要したのと、アダンのテクストそのものの難解さにある。アダンの読解作業に予定より多くの時間を費やすことになった。 ジャン・ド・ティナン(1874-1898)の作品については、予定していた『成功すると思うか!』(1897)の分析に着手はしたが、今年度内に論文にまとめることはできなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は資料館で複写した資料を活用しつつ、複数の作家のあだいで共有されていた概念を検討していく。 たとえば『成功すると思うか!』(1897)は、メタフィクション的な作品であり、小説を書くことをめぐって成立している小説である。こうした視座は、当時ティナンが属していた『メルキュール・ド・フランス』誌のグループで共有されていたものである(たとえばジャリなど)。来年度は引き続き先行文献が少ない作品を論じていくが、雑誌のグループで共有されていたアイデアに注目することで、たんなる作品読解やテーマ読解を回避することができるはずである。 またモークレールは近年、重要な研究書がイタリアで上梓されたが、グループ論の角度からはまだ検討する余地がある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
アンソロジー刊行のための予算にまわす必要があるため。
|