最終年度となる2023年度は、シンポジウムでの発表(日本語)を1回、国際シンポジウムでの発表(フランス語)を2回おこない、査読付き論文2本を執筆した(刊行決定済)。 マラルメシンポジウム(於神戸大学)では、メディア・エコシステムの枠組みから、マラルメが同時代の雑誌といかなる関係を構築したのかを明らかにした。日仏書簡体シンポジウム(於京都大学)では、ポール・アダンの『白色評論』小説『マレーシア便り』を、評論集『凡庸なるものたちの勝利』との関係から読み解いた。パリで主催した国際シンポジウム「象徴派プレスの黄金期における前衛小説」では、『独立評論』の出版エコシステムを明らかにすることができた。 研究期間全体実施した研究の成果としては、2022年度の在外研究中にかなりの進展があった。一つは出版社との関係をめぐる調査が十分にできたことである。またその過程で、これまで行ってきた1890年代の小説の検討に加え、1880年代後半の「象徴的小説」の理論と実践について、『象徴派』、『独立評論』、『ワーグナー評論』の3誌を中心に、総合的な分析を提示することができた。その結果を、フランス語での発表や論文にまとめることができたことが、研究成果として非常に実りがあった。 また、並行して共同研究に着手したこともあり、定期的に研究会を開催してきた。協議を経て、対象コーパスを飛躍的に拡張することができた。日本ではほとんど知られていないが、「象徴派小説」を検討するうえで欠かすことのできない雑誌の作家たちの多くの作品を検証することができた。シンポジウムに参加するなかで、フランスの共同班に多くの新しい共同研究者を迎えることができたことも、副次的ではあるが成果として大きかった。
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