研究課題/領域番号 |
19K00492
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大宮 勘一郎 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (40233267)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ドイツ文学 / 近代文学 / 古典主義 |
研究実績の概要 |
研究プロジェクト1年目となる2019年度は、17~18世紀のヨーロッパ、特にフランス、ドイツにおいて「古典」概念が特異な規範性を帯びた経緯を跡づける作業を進めた。第一に、フランスにおけるボワローの美学と、17~18世紀の転換期に生じた新旧論争を検討し直し、近代的な「古代」受容の視点がすでに「古代派」の側においても認められることを確認し、「近代派」との争いを経てそれが明確化した、という点がこの論争の歴史的な意義であると結論づけた。18世紀ドイツの芸術論はこの論争を継承したが、そこでは「ドイツ語」による文芸はいかなる規範に基づくべきか、という主題を巡るものへ争点が移動した。「古代」を独自にとらえなおそうとする機運の高まりと、ドイツ語の特異性を論じる議論とが絡み合うことで18世紀のドイツ文芸は展開する。この過程を論文「<国語>形成の一断面」にまとめ、申請者が編集責任者をつとめる論文集『ノモスとしての言語』掲載論文として出版予定である。 また、海外の大学との研究交流のため、2019年7月~8月にイギリス(オックスフォード大学)およびドイツ(ベルリン自由大学)を訪れ、現地研究者と打ち合わせを行った。このうちベルリンのエクセレント・クラスターとは、シンポジウム、ワークショップなどで定期的な意見交換の機会を持つことを確認しているが、2020年7月開始が延期され、9月以降の開催が見込まれている。 2019年8月には日本独文学会主催のアジア・ゲルマニスト会議札幌大会が北海学園大学で開催され、実行委員として参加した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画書に記載したように、一年目には17~18世紀の「古典」概念形成期に焦点を当てた研究を計画していたが、おおむねその作業が進み、研究対象に対する分析を深化させることはできている。かつ2年度目に予定している、ドイツ近代における古典概念の変容を考察する理論的道筋がつきつつある。ただし、海外との研究交流に関しては、疫病の世界的流行が大きな障害となっていることは否めない。また、図書館など大学施設の使用が制限されているなど、プロジェクト2年度における研究遂行には懸念がある。
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今後の研究の推進方策 |
研究1年目の成果を受けて、古典概念の変容過程に焦点を当てた研究を計画し、その端緒をなす研究を遂行しつつある。具体的には、近代ドイツにおける「ドイツ語論」としての言語論と、伝統的な学識言語とされたラテン語など「古典」語との関係の変化をたどる作業を行なっている。ドイツ語文芸のみならず、ドイツ語による学問形成は、言語改良や言語の歴史的由緒へと立ち返る議論と絡み合いつつ進行してきたが、そのうえで成立する様々な学問的達成は、普遍的学知ではあるが、そのことと同時に、特殊な言語環境を背景としたものとして考察する必要がある。こうした観点からの研究を、国際的な議論を場を設けつつ進めてゆく計画である。 現在の疫病流行による活動制限措置が緩和・解除されるのに応じて、計画通りの遂行へと立ち戻ることを模索している。研究2年度目には、大学施設を使用しなくてはならない場合が非常に多く、また、研究交流、学会活動などに対する障害が逓減することを切に願っている。
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