本プロジェクトの遂行は、CoVidヴィルスの流行のために遅延を余儀なくされたが、その遅延はまた、生産的なものでもあった。すなわち、従来の研究遂行環境が制限されたことにより、古典的学問が同様な危機にさらされた際に、いかなる態度で応じたのかを顧みる機会となった。例えばドイツの古典主義の創設に与ったゲーテは、これらの深刻な蔓延に動揺する人々に対して、冷静に日々の用を足し続けることが肝要であると説いたが、これは流行と不易を取り違えないようにとの戒めでもあった。疫病からは、単なる流行に過ぎぬものから身を護りながら、変わらぬものへと注意を向けることの必要性を人々に教えるのであり、本プロジェクトの遂行者もこれに従い、古典期の著作の再検討という課題に取り組み、印刷中のものを含めて四本の論考と一編の翻訳を上梓し、国際ワークショップでの講演を一度行った。いずれも、古典的作品、古典主義的思想と批判的観点を盛り込みつつ取り組んだものである。 今年度はまた、国際的な学術交流にも再び本格的に取り組むことができ、ベルリン自由大学に研究滞在し、さまざまな研究者と意見交換を行った。とりわけ、ベルリン自由大学のアンネ・フライク教授、ベルリン・フンボルト大学のヴォルフガング・エルンスト教授、ハーゲン放送大学のウーヴェ・シュタイナー教授、ブランデンブルク・アカデミーのラルフ・シュネル教授との議論は、極めて有益であり、目下執筆中の論考「ホーフマンスタールにおける古典概念とその時間的再検討」に反映される。
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