2022年5月~7月にかけて、チェコ共和国プラハの国立図書館などにて研究調査を行い、具体的には、ヨゼフ・ユングマン、パヴェル・アイスネル、ミラン・クンデラを軸とした実地調査、資料収集を行った。6月には、チェコ文学世界会議に参加し、研究者との意見交換を行った。同年9月には、第5回世界哲学における翻訳の問題シンポジウム(東京大学)にて研究報告「文芸翻訳の機能──パヴェル・アイスネルの事例から」を行ない、その後、同内容は論文(「文芸翻訳とパラテクスト」、『未来哲学』第5号、2023年1月、122-135頁)として発表した。 ボヘミアにおける文学史の系譜をたどるうえで、最終的に行き着いたのは、19世紀のユングマン、20世紀初頭のユダヤ文学、そして同後半の冷戦下における中欧・東欧(クンデラ) の議論という3つの結節点である。これらの論点は文学史における個々の作家・翻訳家の問題にとどまらず、文化論、そして翻訳研究の問題系と密に接している。複数言語が共存する土地における文学史は、翻訳の問題が中心であり、時代によって翻訳の機能が変容する様相をこれらの個別の研究を通して確認することができた。これまでも、個々の研究を通して、一定の成果を確実に上げることができたが、全体としての研究成果は、単著としてまとめて2023年中に刊行予定である。公刊されることによって、本研究の意義が広く伝わることが想定される。
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