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2019 年度 実施状況報告書

モーリス・バレスの小説におけるモニュメントの表象

研究課題

研究課題/領域番号 19K00495
研究機関お茶の水女子大学

研究代表者

田中 琢三  お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (50610945)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワードフランス文学 / ナショナリズム / モニュメント
研究実績の概要

本研究の初年度となる令和元年度は、モーリス・バレスの連作小説『国民的エネルギーの小説』3部作の第1巻『根こそぎにされた人々(デラシネ)』(1897)を取り上げ、この小説で描かれているパリのモニュメントの数々が、物語においてどのような象徴的・イデオロギー的機能を果たしているのかを検討した。特にナポレオンの勝利を記念して建設された凱旋門とフランス共和国に貢献した偉人の墓所であるパンテオンに注目して、これらのモニュメントを舞台として展開されるヴィクトル・ユゴーの国葬のパッセージを分析し、その成果の一部を『お茶の水女子大学 人文科学研究』第16巻に論文「バレス『デラシネ』におけるユゴーの葬儀」として発表した。この論文では、ユゴーと小説の主要登場人物との関係を明らかにしながら、無意識的な国民的エネルギーを体現するパリの群衆の表象について考察し、フランスのナショナル・アイデンティティを象徴するモニュメントといえる凱旋門とパンテオンの小説的表象が、当時まさに形成されつつあったバレスの伝統主義的・国家主義的イデオロギーとどのように関わっているのかを明らかにした。
また2019年12月12日には、お茶の水女子大学において木内尭氏(東京大学研究員)の講演『フローベールと大聖堂』(お茶の水女子大学仏語圏言語文化コース主催)を開催した。講演で木内氏は、ギュスターヴ・フローベールの作品、特に『聖ジュリアン伝』(1877)とフランスを代表するモニュメントのひとつであるルーアン大聖堂のステンドグラスに描かれた図像との影響関係を論じて、フローベールにおけるモニュメントの作品化の一側面を浮き彫りにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

3年間の研究の1年目にあたる本年度は、科研費交付申請書の研究実施計画に記した計画に従って、バレスの小説『根こそぎにされた人々』におけるモニュメントの表象について研究を進め、その成果の一部を査読付き論文として発表するに至った。そして、この論文を執筆する過程で、現実に挙行された歴史的なセレモニーであるユゴーの国葬や、凱旋門とパンテオンという実在するモニュメントを、バレスの小説的想像力がフィクションの物語の世界にどのように導入し、どのように「再創造」しているのかという問題について、政治的イデオロギーの伝達という観点から考察を深めることができた。
さらに、この論文の執筆と並行して、2年目以降の研究の土台作りとして、バレスの著作のさまざまなエディションやこの作家に関する近年の論考や研究書を入手し、それらを精読する作業を進めた。特にイヴ・シロンやフランソワ・ブロッシュによる詳細なバレスの評伝を再読し、この作家の伝記的事実とモニュメントの関係性を探り、とりわけ両親の死を契機に高まった先祖の墓碑に対するバレスの強い意識の重要性を確認することができた。
また木内尭氏による講演「フローベールと大聖堂」を開催し、その後質疑応答を行うことによって、バレス以外の作家が、小説の題材としてどのようにモニュメントを扱っているのかを理解することができ、比較対象として今後の本研究にとって有益な機会であったとともに、フローベールとモニュメントの関係に新たな光を照射することができた。
新型肺炎の影響などによって、フランスにおける資料調査や発表を行うことはできなかったが、インターネットを通じて最新の研究状況を把握することに努めた。

今後の研究の推進方策

令和元年度に実施した研究の成果を踏まえながら、2年目の研究はバレスの『国民的エネルギーの小説』の第2巻『兵士への呼びかけ』(1900)をおもな対象とする。この小説の第11章で重要な役割を果たしているのがモーゼル川流域のモニュメントの数々である。シャンビエールの墓地にある戦没者記念碑に代表されるように、これらのモニュメントの多くは普仏戦争や革命戦争の記憶を喚起するものであり、それはバレスの分身である小説の主要登場人物におけるナショナリズムの高揚と強く結びついている。本研究ではモーゼル川流域の旅行に登場するこれらのモニュメントが、小説においてどのような物語的・イデオロギー的機能を担っているのかを明らかにする。
3年目は『国民的エネルギーの小説』の第3巻『彼らの顔』(1902)やバレスの他の小、におけるモニュメントの表象を分析する。バレスには死や破滅に魅かれるという傾向があり、実際、彼の作品において死者や墓地は繰り返し想起される重要なモチーフとなっている。そのようなバレスの死や破滅への志向が、死者のモニュメントである戦没者記念碑や墓碑の表象とどのような関係を取り結んでいるのかを、ヨーロッパにおける死の表象を分析したフィリップ・アリエスの著作や、国内外の戦没者記念碑に関する歴史学的、政治学的な研究を参考にしながら検討する。
これらの研究の成果は、学術雑誌に論文として発表したり、シンポジウムなどで口頭発表を行うほか、個人ホームページに掲載して広く公表する予定である。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2020

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)

  • [雑誌論文] バレス『デラシネ』におけるユゴーの葬儀2020

    • 著者名/発表者名
      田中琢三
    • 雑誌名

      お茶の水女子大学 人文科学研究

      巻: 16 ページ: 81-92

    • 査読あり / オープンアクセス

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公開日: 2021-01-27  

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