研究課題/領域番号 |
19K00502
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
藤原 真実 首都大学東京, 人文科学研究科, 教授 (10244401)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 地下文書 / ロベール・シャール / 計量分析 / 18世紀フランス文学 / 作者 / 匿名性 / 文献学 / 美女と野獣 |
研究実績の概要 |
代表的な哲学的地下文書の一つである『宗教についての異議』に関して、ロベール・シャールを唯一の著者とする説が定説化するなかで、そこに複数の筆者の痕跡があることを明証的に示すことが本研究の課題の一つであった。2017年以降、ソルボンヌのCELLF16-18のOBVIL において、計量分析の専門家フランチェスカ・フロンティーニとの共同研究を行うことにより、現在に至るまで本研究を推進してきた。今年度はこれまでに得られた成果を、ジュヌヴィエーヴ・アルティガス=ムナン教授を筆頭著者とする共著論文にまとめる作業を行った。すでに入稿済みで、クラシック・ガルニエ社から刊行予定の単行書CELLF16-18のOBVILプロジェクト研究報告書に収録される。OBVILプロジェクトは本書の刊行によって終了するが、『宗教についての異議』の筆者の複数性についての研究は今後も続けられる。2020年3月14日にソルボンヌ大学で開催予定のロベール・シャール学会(Societe des amis de Robert Challe)で今後の研究について討論する予定だったが、Covid-19感染拡大のため中止された。 本研究のもう一つの重要な課題である匿名性の問題について、今年度は特にオリジナル版『美女と野獣』の著者として再評価されつつあるガブリエル・シュザンヌ・ド・ヴィルヌーヴ(1685-1755)を取り上げて研究した。後世に大きな影響力を持った作品の作者がなぜこれほど長く埋もれてきたのかという問いを契機に、18世紀の女性作家を取り巻く状況と、その匿名・無名性の背景にある問題を明るみに出し、妖精物語という文学ジャンルに固有の作品と作者の関係性、共有物としての作品の概念を明らかにした。この成果は研究論文「18世紀フランス社会と作者──『美女と野獣』とヴィルヌーヴ夫人」として所属研究科の紀要『人文学報』に掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の目標としては、まず『宗教についての異議』における作者の複数性を明らかにし、ついでほかの地下文書を同じ方法で分析することにより、2021 年度までに、地下文書における作者の複数性を明らかにし、それらの作者を可能なかぎり同定することを掲げている。前者については、フランチェスカ・フロンティーニとの共同研究において或る程度の成果を挙げることができたが、『宗教についての異議』以外の地下文書の分析は、まだ準備段階にとどまっている。一方、本研究の4つ目の論点である「匿名制の問題の分析、共同作業としての作品の概念」については、特に18世紀前半期のフランス社会と女性作家の匿名性を研究し、単著論文「18世紀フランス社会と作者──『美女と野獣』とヴィルヌーヴ夫人」にまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画どおり、以下の4つのアプローチを同時進行で推進することにより、17-18世紀フランス文学のなかに存在した共同作業としての作品の概念を明らかにする。1-1.『宗教についての異議』以外の複数の地下文書について、分析に適した校訂版を精査し、それらのテクストファイルを準備する。これについては、地下文書の専門家マリア・スザナ・セガン教授とジュヌヴィエーヴ・アルティガス=ムナン教授の助言を求めながら着実に収集するとともに、まだ電子化されていない肯定本の電子化作業を、RAを活用しながら行いたい。1-2.準備された地下文書のテキストファイルに対して、フランチェスカ・フロンティニと共同で計量分析を行うとともに、それらのテクストの言語的・文体的特徴を『宗教についての異議』と比較・考察し、結果を論文にまとめる。2.フランスとオランダで出版された学術的刊行物の複数の作者による盗用や改変とその中に見られる思想論争の分析をとおして、17-18世紀における共同作業としての作品の概念を明らかにする。3.アプレイウスなどの古代物語の系譜に連なり、対話のなかで創作された17-18世紀の小説と妖精物語群(スキュデリー嬢、ラ・フォンテーヌ、ドーノワ夫人、ペロー、レリティエ嬢)、同じタイトルやテーマで書かれた劇作品(大クレビヨンとヴォルテール)、小説の続編や偽作(ロベール・シャールによる『ドン・キホーテ』の続編(1713)、アベ・プレヴォーやヴィルヌーヴ夫人によるロベール・シャール『フランス名婦伝』の「翻案」など)を系列的アプローチにより分析する。4.匿名性の問題を、著作権概念確立以前の所有の概念との関係において追究するため、問題に関する当時の作家たちの言説を可能なかぎり収集し、17-18世紀の作家たちが自らの作品に対してどのような権限を行使したのか、あるいはしなかったのかを調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度以降にフランスから研究者を招聘しての共同研究や地下文書の電子化作業を計画しており、高額な出費が予想されるため、予算を節約しているところである。
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