研究課題
本研究課題は、16世紀前半の架空譚における建築描写の役割を、政治・思想・文学史の3つの観点から明らかにすることを目的としている。本研究課題2年目となる2020年度は、資料収集、資料読解と発表、オンラインでの研究交流を行った。文献収集に関しては、世界的に流通が滞り、海外からの書籍納入が大幅に遅れることがあったが、その間主に修辞学と造形芸術に関するオンラインでの資料収集や学術サイトのまとめを行った。また、有力者と芸術コレクションに関する資料収集を行った。順次入手した資料の読解を進めた。まず本研究で取り上げる架空譚の時代背景について調査を進めた。宗教戦争へと至る不寛容の時代における有力者と著作家の間の関係性を書簡等の文献をもとに分析した。ラブレーの伝記的調査もここに含まれ、本調査に基づいて学生に向けた作品紹介の文章を発表した。史実の調査から派生した作業として、アナール学派の文献をもとに、史実とフィクションの概念を考察し、それらの交錯を16世紀のテキストの中に観察した。この考察をもとに、2016年にトリノで行った学会発表を再考し、宗教思想を背景としたラブレー『第四の書』における「etrange」の概念について論文を発表した。文学テキスト中の建築描写に関しては、コロンナ『ポリフィルス狂恋夢』の分析を始めた。現在翻訳を行っているラブレー評論に照らして、コロンナ作品における建築描写の分析を開始した。これらと並行して、ルネサンス研究の連合団体が開催した自国におけるルネサンス研究に関するアンケートに参加した。また、オンラインによる学会・研究会に参加して各国の研究者と学術交流を行った。特に修辞学の一技巧に特化したオンライン研究会への参加は本研究課題にとって非常に有意義なものとなった。こうした環境が整ったことで、限界はあるものの今後遠隔地においてもこれまで以上の学術交流が可能になった。
2: おおむね順調に進展している
資料収集、資料調査・読解に関しては、予定していた作業を行った。1年間に渡って新型コロナウィルスの影響によりフランス及びイタリアへ渡航できずフィールドワークが不可能だったため、建築物の取材と現地での資料収集ができなかったが、それに代わり、オンライン上で閲覧できる資料のまとめとオンラインによる各国ルネサンス研究者との情報交換と研究打ち合わせを行った。以上の理由により、おおむね順調に進展していると判断される。
2021年度もおそらくフランスおよびイタリアでのフィールドワークが困難だと考えられるため、入手可能な資料収集と文献読解と発表を着実に進めることが研究推進の手段となる。引き続き、文学と造形芸術との間の共通の理論基盤の調査・分析を行いながら、資料がおおかた収集された有力者と芸術コレクションのテーマに関して、人的関係の調査とともに、装飾・図像プログラムの読解を推進する。フィールドワークが可能になり次第、現地での建築物および資料の調査に取り掛かる予定である。今年度、対面での学会開催や会合が全世界的に困難であった分、オンライン会合が増え、参加者も増加した。遠距離でも交流を図りやすい環境ができつつある。対面での会合の重要性は変わらないことは各国の研究者とも一致した意見だが、今後対面が可能になった場合も、オンラインの利点を活用してさらに交流を広げたい。
新型コロナウィルスの影響で、2020年8月、2021年3月に予定していたフランス及びイタリアでのフィールドワークが中止となり、旅費・宿泊費・日当が不要となった。次年度、渡航が可能になり次第、資料収集のための旅費に充てる。引き続きフィールドワークが不可能な場合は、資料の購入費、論文発表のための校閲料、オンライン学会への参加費等に充当する予定である。
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La Langue et les langages dans l'oeuvre de Francois Rabelais, etudes rassemblees par Franco Giacone et Paola Cifarelli, Etudes rabelaisiennes,
巻: Tome LIX ページ: p. 73-83