研究課題/領域番号 |
19K00505
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
博多 かおる 上智大学, 文学部, 教授 (60368446)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヘテロトピア / オノレ・ド・バルザック / 語りの構造 / 温室 / コレクション / 異時間 / 鏡 / 地図 |
研究実績の概要 |
ミシェル・フーコーの提案したヘテロトピア学を昨年度に続けて吟味するとともに、バルザックの『人間喜劇』においてヘテロトピア的な性質を持つ場について研究を続けた。特にバルザックの作品における庭と船に着目し、それらの空間がフーコーの考えたヘテロトピアの性質に照らしていかなる性格を持ち、文学作品の中でその性格がどのような役割を発揮するのかという点を解き明かそうとした。 本年度は、いくつかの小説の詳細な分析を行い、ヘテロトピアという概念を適応することで先行研究に新たな光を当てられる可能性にも留意しつつ、論文を執筆した。まずは、バルザックの小説『オノリーヌ』の庭を、枠物語である語りの構造に照らして分析し、異なった語りのレベルに現れる庭が連関していること、そのことを通じて、読者の記憶と物語内のヘテロトピア的な性質が結びつくことを見た。 次に『ウージェニー・グランデ』における庭を、鏡や地図との関係において読み解いた。これらの研究から、フーコーの指摘どおり、ヘテロトピアがヘテロクロニー(異時間性)と結びついていることが検証され、それらのヘテロトピアを通して小説の時間の構造が『人間喜劇』の歴史的な射程とつながる例が発見された。また複数のヘテロトピアが小説の中で関連し、そのことで小説の潜在的な主題が浮き彫りになる仕組みが指摘された。 さらに『モデスト・ミニョン』や『三十女』などの現れる庭の時間性について考え、異なった気候のもとで育つ植物を集めた温室や世界中の富を集めたコレクションが、バルザックの作品にこめられた考古学的な思考やコレクションの概念の変遷といかに連鎖しているかという点にも着目した。これらの研究の成果は論文にまとめ、その論文は近く発表される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミシェル・フーコーが提唱したヘテロトピアの概念をふまえ、フランス19世紀小説をあらたな視点から読み解き、小説ならではのヘテロトピアの特性を見出すという当初の計画を遂行できている。対象とする作品の点では、さらに19世紀のバルザック周辺の作家との比較も進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
バルザック作品におけるヘテロトピアの全容をさらに詳細に描き出すとともに、同時代の作家との比較も行うこととする。少なくとも、研究期間中にはバルザックの小説におけるヘテロトピアがいかに機能しているのかという研究の成果をまとめたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
フランスでの学会発表と資料調査を予定していたが、Covid-19の感染拡大により渡航が不可能になったため、2020年度は予定していた額をすべて執行しなかった。次年度使用額と、翌年度分として請求した助成金は、昨年度行えなかった資料調査の実行を含めた研究の遂行のため、あるいは、海外の図書館や資料館に所蔵された資料の電子媒体化を依頼しつつ、研究を効率的に進めるために使用する。
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