最終年度である2022年度は、学術論文の執筆と並行して、これまでの研究成果の総括を行いつつ新しいアプローチを試み、そして近い将来に本課題に関わる単著を完成させるため、単著全体の構想を整理する作業を行った。 2022年度は、これまでの研究成果で用いられていた観点や方法に加えて、新たに、「動物/動物性と文学」という主題を、本研究課題の対象であるギッピウスの創作において考えるに至ったことが、もっとも意義深い成果であると言える。言うまでもなく、人間と動物をどう区別するか、両者はいかなる点において違うのか、なぜ人間には動物を支配することがゆるされるのか、それは西洋哲学において常に重要な主題であり続けてきた。そしてこの動物/動物性の主題は、ジャック・デリダやジョルジョ・アガンベンの名を挙げるまでもなく、現代思想の中心的主題であり続けている。 本研究課題のこれまでの遂行過程においては、ジェンダー/セクシュアリティ論、フェミニズム批評、身体論の側面から考察を進めるという方法論をとってきた。これは、課題の遂行においてきわめて有効な選択であったと認識しているが、2022年度さらに、動物論や動物研究という視座が加わったことは、本研究課題の今後の展開において大きな意味を持つであろう。なぜなら動物/動物性の研究は、非常に交差性が高い。今後はより多角的に、社会と文化における権力構造にかかわるフェミニズム的/動物論的実践としてのギッピウスの創作、その全貌や細部を、詳らかにしていくことが可能となるだろう。 現代思想や社会実践において、女性性と動物性はきわめて注目度高く、また今後とも、社会正義の実現に向けての鍵概念になっていくであろうと思われる。本研究課題がそうした流れのなか、人文学研究の領野において、微かなりとも社会に貢献しうるものとなるよう志しつつ、早々に研究成果をまとめ上げたい。
|