バルト、ブランショ、デリダにおけるエクリチュール概念と発話理論の関係を明らかにするという本研究の目的に沿って、令和4 年度は主として以下の研究を行った。 (1)ブランショのレチフ・ド・ラ・ブルトンヌ論についての分析をフランス語論文にまとめ、Etudes retiviennes(『レチフ研究』)誌に寄稿した。 (2)ブランショの初の文芸評論集がジャン・ポーラン『タルブの花』論であり、その後も1940年代のブランショがたびたびポーランの問題提起に立ち返ったことを重視し、「恐怖政治家」(言葉を忌避する作家・批評家)と「修辞家」(言葉を重視する作家・批評家)の二分法の上で「修辞家」たることを提案する『タルブの花』の議論における「常套句」の位置を文学史の流れにおいて再検討することで、ブランショがポーランに注目した理由やブランショの文学言語論の特徴を探った。研究成果はジロドゥ/サルトル/ブランショ/ポーランをめぐるシンポジウムにおいて発表し、論文として書籍に寄稿した。 (3)ケーテー・ハンブルガー、クロダ・シゲユキ、アン・バンフィールドなどにおいて展開された、ジェラール・ジュネットのようなナラトロジーに与さず、物語をコミュニケーションとして捉えない非コミュニケーション的物語理論の系譜について整理したうえで、それと、文学を非人称的な言語と捉えるブランショの文学言語論(エクリチュール論)との接続の可能性を探った。研究成果は物語論×バンヴェニスト研究会において発表した。
|