研究課題/領域番号 |
19K00524
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研究機関 | 北海道科学大学 |
研究代表者 |
梶谷 崇 北海道科学大学, 未来デザイン学部, 教授 (10405657)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 柳宗悦 / 柳兼子 / 民藝 / 民藝運動 / 民藝館 |
研究実績の概要 |
2022年度は前年度に引き続き柳宗悦のフィールドワーカーとしての側面に着目し、昭和初年代から戦後の時期の柳の足跡を辿ることを目的に、日本民藝館(東京)、愛媛民芸館(愛媛県西条市)、鳥取民藝美術館(鳥取市)等の関連施設を訪問し、視察、ヒアリング等を行った。 日本民藝館においては柳と地方民藝館との関係についての情報や資料の提供をいただいた。 愛媛民藝館は、柳の経済的支援者であり、柳宗悦没後の日本民藝協会会長であったクラレ社長大原総一郎が主導して建設された民藝館である。愛媛民藝館では開館当時の状況を伝える資料(会誌等)を提供いただきデータベース化を進めている。会誌の1/3ほどは散逸しているものとみられ、現在民藝館にさらなる収集を依頼している。現館長真鍋和年氏他、関係者、愛媛民藝協会員の方へのヒアリングを行い、開館当時の様子や柳宗悦の影響等について検討を加えた。柳ら民藝派が制作指導にあたった砥部焼窯元(梅山窯)を訪問し、その足跡や影響についてヒアリング、資料収集を行い、現在に至る柳らの影響について検討を加えている。 鳥取民藝美術館では関連施設を視察し、また館長はじめ鳥取地域の民藝運動研究者より民藝運動の展開について情報提供をいただいた。鳥取民藝館を開設し当地の民藝運動を牽引した吉田璋也は柳の山陰地域におけるフィールド調査に協力した。柳のフィールド調査は全国(戦前は外地も含む)の民藝運動家等の協力のもとに展開されている。 本年度は彼らの活動も追いつつ、柳のフィールド調査を検討した。戦前期における朝鮮半島での調査旅行は日本国内の民藝調査と連続性の中にあり、それ故に大正期の朝鮮論とは異なる。 以上の観点から、これまでの柳宗悦の朝鮮フィールド調査をもとにした朝鮮民藝論「全羅紀行」等を中止として、2022年度は2本の研究論文にまとめ投稿をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初韓国の図書館等を利用した資料調査はコロナ禍の影響もあり多くを断念することになった。 研究期間の4年目を迎えた2022年度はある程度渡航が許される状況になったが、移動自粛期間に計画変更をした日本国内での調査活動を継続することとした。戦前期の柳宗悦のフィールドワークに関する資料収集においては日本国内の図書館や資料館等でも収集可能なものも多く、また現在は韓国のデジタル図書館やオンラインデータベースにおいても資料をデジタルで公開しているものも増加しており、それらを活用することで調査可能であったため、概ね順調に調査研究活動は進展できているものと判断している。 2022年度には研究期間前半おいて研究分析、および学会発表を経て考察を加えてきた柳宗悦の昭和16年、17年に行った全羅道における民藝調査に関して考察をさらに深め論文投稿を行った。柳は民芸運動の開始した昭和初年代、日本民藝館開館の昭和11年、そして周囲の共鳴者とともに民芸運動を本格化した昭和10年代後半ーそれは同時に日本が総力戦へと向かう時期でもあったがーへと民芸運動を展開していくが、その過程において柳の民藝思想は少しずつ変容を遂げる。朝鮮に関する言説も大正期からの朝鮮民族の工藝賛美から、徐々に日本=近代に対する対抗言説としての朝鮮民藝へと変革を遂げていると分析した。柳は反近代としての民藝を全面に押し出すが、それは日本の地方、沖縄と朝鮮を同じ次元で論じることであり、柳の言説において朝鮮は民藝言説の一部として取り込まれていく。柳の朝鮮でのフィールドワークはそれらを裏付ける性格を帯びてくるのである。 2022年度はいったんそれらの分析をまとめ論文として投稿し、2023年度に研究期間の最終年度を迎えるにあたり、いったん研究をまとめ最終的な結論へと導きたいと計画している。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間の最終年度を迎え、まとめ作業を行う。 これまで昭和初年代の柳宗悦および民藝運動の協力者の朝鮮フィールドワークおよびその言説の分析を行うことを目的に関連する文献資料の収集を行ってきた。特に昭和16年、17年におこなった朝鮮旅行、その旅行記である「全羅紀行」等を中心的な分析対象として分析を行なってきたが、それに加え当時の彼らの日本国内でのフィールドワークに関する言説分析を通して、当時彼らが行った民藝踏査の意義を問いたい。 これまでの調査分析を通して、昭和期の朝鮮調査は民藝調査との連続性が強くみられる。朝鮮の民族芸術の固有性や独自性を強調していたものから、近代批判としての民藝思想へとシフトしているといえる。それらをふまえ、日本国内における民藝踏査と朝鮮でのフィールド調査との関係性に注目して研究成果としてまとめる。 研究成果は2023年度中に所属学会への論文投稿というかたちで公開する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究出張を目的としていた予算が一部未執行である。これについては2023年度に調査を予定している。
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