最終年度の2021年度は、入手済みの文献や資料の精読、追加の調査(京都への出張)、参考資料(『日本美術全集』など)の入手・分析、現役の装画家への取材、そして論文作成など、研究成果の「アウトプット」に向けた研究を意識的に行った。 「ニシムイ美術村」については、沖縄県立博物館・美術館での『移動と表現―変容する身体・言語・文化』展(2009年)図録や『ニシムイー太陽のキャンパスー展』(2016年)記録集などを参考に、同美術村が長く沖縄の戦後美術史の中で相応に評価されてこなかった背景と、再評価に至った経緯などについて整理した。その一方、これまで沖縄や東京の美術館で観てきた「ニシムイの画家」10人の主な作品を、入手した画集や各展覧会図録などを使って改めて検討し、その画業の再評価を行った。それと並行し、論文などで彼らの作品を紹介する際に資料として示す画像データの準備作業を、撮影や投射の機材などを用意して進めた。 ニシムイの画家と沖縄の戦後文学の関わりについての先行研究は、地元紙掲載の連載小説向け挿絵の調査があったが、本研究では、画家らが手掛けた雑誌『新沖縄文学』の表紙に加えて、彼らと交流のあった大城立裕と彼に続く3人の芥川賞受賞作家の、小説の単行本や文庫本のブックカバーの調査・分析を行い、挿絵に止まっていた分析対象を広げた。ブックカバーを装丁の観点からだけではなく、文学とアートが出会う「場」として論じる文学研究のテーマは、米国の英文学研究者らも本格的に着手したのはごく最近であり、本研究はそうした研究にも共鳴しつつ、ニシムイ美術村の画家と、その系譜を受け継いだ画家らと、沖縄の戦後文学作品との出会いの「場」についての具体的な考察を行った。 なお、ニシムイの画家は全員鬼籍に入っており、ブックカバーや挿絵の制作の実際やそのイメージをつかむために、現役の挿画家にインタビューする取材なども行った。
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