研究課題/領域番号 |
19K00528
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
片岡 大右 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 講師(非常勤) (30600225)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 加藤周一 / デヴィッド・グレーバー / 鶴見俊輔 / リュック・ボルタンスキー / ロマン主義 |
研究実績の概要 |
2021年度もコロナ下での混乱は続き、登壇予定のフランス・(ポスト)ロマン主義および書簡文学をめぐる2つの国際シンポジウムは翌年度に延期された。 加藤周一研究に関しては、三浦信孝・中央大学名誉教授と半田侑子・立命館大学加藤周一現代思想研究センター研究員と本研究代表者の3人を発起人として研究者間の緩やかな集まりを結成し、6回の会合を持った。第4回と第5回は公開で行い、多くの聴衆を得た(第4回は「加藤周一と21世紀の社会主義? 戦後日本思想と現代」と題した本研究代表者の講演、第5回は東京大学東アジア藝文書院との共催による岩津航『レトリックの戦場』の公開合評会)。また、前年度の『加藤周一を21世紀に引き継ぐために』公開合評会での報告記録が、立命館大学発行の冊子に収録された。 デヴィッド・グレーバーについては、論文「デヴィッド・グレーバーの人類学と進化論」(『現代思想』2021年10月号)執筆、日本文化人類学会の『負債論』刊行10周年記念シンポジウムへの登壇のほか、ブライアン・イーノとの対談の翻訳・解説を行った(『tattva』第3号)。 批評と大衆文化をめぐっては、3つの業績を発表した。「多様性と階級をめぐる二重の困難――HBO版『ウォッチメン』とそのコンテクスト」(文化庁「メディア芸術カレントコンテンツ」)と「『鬼滅の刃』とエンパシーの帝国」(『群像』2021年11月号)のいずれにおいてもグレーバーの議論を導入しており、また後者では日本のマンガ全般の文化的射程をめぐり、鶴見俊輔と加藤周一の議論の対照を行った。「長い呪いのあとで小山田圭吾と出会いなおす」(岩波書店「コロナの時代の想像力」)では、この音楽家のスキャンダルを契機としつつも、リュック・ボルタンスキーやキャス・サンスティーンを参照して批評/批判と社会の関係を一般的に考察するとともに、1990年代の文化的文脈の再構成を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ下の混乱により、19世紀フランス文学研究の分野での研究報告は延期となったが、準備は進んでいる。加藤周一研究については、研究者グループを結成し、活発な意見交換を行う環境を構築できたのは大きな達成であり、しかもその成果の一部はすでに公開して世に問うことができた。「批評」の意義の再検討と大衆文化へのアプローチという課題に関しては、グレーバー、加藤周一、リュック・ボルタンスキーらの議論を導入して大きな進捗を見た。多岐に渡る課題を並行的に遂行しつつ総合するという本研究課題の性格もあり、各課題の進捗には不均等が生じているけれども、全体として見るなら、充実した展開を実現できている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は本研究課題の最終年度に当たる。「批判」と「ロマン主義」と「日本的近代」の3つの主題に並行して取り組みつつそれらの総合を目指すという本研究課題の企ては、デヴィッド・グレーバーを介しての人類学的視野の導入や大衆文化へのアプローチの前景化など、当初の想定になかった修正を経て現在に至っているが、全体として、最終年度にふさわしい一定のまとまりをつくり上げられるよう努力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍に伴い地方でのシンポジウム参加が取りやめとなり、出張旅費が浮いたために次年度使用額が生じた。2022年度に改めて出張旅費として使用する予定。
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