研究課題/領域番号 |
19K00529
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
中垣 恒太郎 専修大学, 文学部, 教授 (80350396)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ホーボー / ヒッピー / 放浪者 / 対抗文化 / 精神文化 |
研究実績の概要 |
「渡り労働者」を意味する概念である「ホーボー」(hobo)のモチーフが、アメリカ大衆文化の中にどのように継承されていったのかを探る。アメリカ大衆文化におけるホーボー像の転換を、1960年代のソロー再評価の動向と重ね合わせて捉え直すことにより、対抗文化の作法としてのアメリカ大衆文化を貫く精神文化のあり様が見えてくる。ヒッピーの登場期としての対抗文化の時代を経る中で変遷を遂げており、そこにはソローの思想の継承が随所に見受けられる。ソローは対抗文化の同時代人ではないにもかかわらず、ヒッピーの時代の中で登場人物の思想やイメージ形成に大きな役割をはたしている。ホーボーの物語の系譜においては、社会現象としてのホーボーが現実の世界で消滅していくのと前後するように、あたかも哲学者としての趣を持つかのような新たなホーボー像が物語の中で再創造されていった。既存の伝統に抗う形で対抗文化が生成されていく際に、過去の先達としてのソローの思想に依拠することにより、アメリカの精神文化における「反骨の作法」とでも称すべきオルタナティヴな伝統が造り上げられていく過程に注目した。 ホーボー像の変容から、ロマンティックに理想と追憶を込めて描き直された「自由を志向するアメリカ」というナショナルな物語としてのホーボー像の系譜と、現実のアメリカ社会が抱える諸問題との対照が浮かび上がってくる。神話化の背後で、現在もなお命がけの中南米からの過酷な国境越えや無賃乗車により、新しい生活を目指し移動する者たちの現実もある。 さらに「トランプ現象」としての21世紀現在においては、多様化・断片化が進む主流文化が見えにくく存在しにくくなっている。アメリカが本来あるべき理想をカウンターとして示す、アメリカの精神文化としての対抗文化の伝統について、対抗文化がどのようにソローから学び、依拠しながら発展を遂げていったのかを遡って検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
口頭発表の機会を多く得ることができたが、成果物としての論文、出版企画が遅れている傾向にある。本年度は論文・出版企画の執筆に力点を置きたい。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では何件か海外での研究発表の予定があり採択通知も得ていたが、新型コロナウイルスにより中止あるいは延期となる例が相次いでおり、国際学会での研究発表計画は変容を余儀なくされている。 本年は本研究課題の2年目にあたり、研究成果を論文・出版企画に繋げる段階に位置づけられる。すでに各種学会で研究発表を行った口頭発表原稿を発展させる形で成果報告の準備を引き続き進めていく。 人文科学研究もまた、社会状況のあり方と不可分な関係にあり、「文化政治学」としての表象文化・比較文化研究である本研究課題においては、現在の疫病の蔓延により顕在化する社会構造の諸問題も見過ごせない論点となる。本研究課題で扱うテーマである「移動労働者」の存在は災害に代表される非常事態において厳しい立場に置かれることが多い。現在の社会状況を踏まえた上で、本研究課題の社会的意義についても自覚的な研究のあり方を探りたい。具体的には、21世紀現在のアメリカおよび世界を展望する研究論文を紀要などの媒体を利用して発表することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
3年間の課題研究として、研究を実施するにあたり、2年目での国際学会および海外アーカイブ調査を充実させるために研究計画を再設計したため。 しかしながら、新型コロナウイルスの世界的流行により予定していた国際学会での研究発表に関して採択通知を受けながら学会自体がキャンセルされている。本年度に関しては、当初の見込みを変更し、国際学会参加およびアーカイブ調査ではなく、基礎文献の拡充に充当させたい。
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