研究実績の概要 |
日本比較文学会第84回全国大会ワークショップ「労働者階級文学の現在」にて、「『取り残された者」たちをめぐるアメリカの物語――プアホワイトの労働と生活は今どのように表象されているのか?」の報告を行った。 「トランプ現象」における「プアホワイト」層をめぐる具体的な物語として、J・D・ヴァンスによるノンフィクション文学『ヒルビリー・エレジー』(_Hillbilly Elegy: A Memoir of a Family and Culture in Crisis_, 2016)、さらに、ジェシカ・ブルーダーによるルポルタージュ『ノマドランド』(_Nomadland: Surviving America in the Twenty-First Century_, 2017)を挙げることができる。弁護士による回想録『ヒルビリー・エレジー』、長期化する不況の中で高齢化する車上生活者の現象を捉えた『ノマドランド』は、それぞれのスタイルで「取り残された」層を描いている。『ノマドランド』の舞台となるネヴァダ州エンパイアの街は、不況により町そのものが消滅してしまった「ポスト・トラウマ都市」(ジャスティン・ゲスト『新たなマイノリティの誕生――声を奪われた白人労働者たち』における造語。代表的な産業を失ったことにより町の機能も喪失してしまった街)に相当する。また、『ヒルビリー・エレジー』は、ラストベルトと呼ばれるオハイオ州の田舎町出身の作者による回想録であるが、一家が移転したオハイオ州の街が同様に石炭産業の停滞により廃れた背景を家族史と絡めて描くことで社会階層上の問題を扱っている。 アメリカの放浪をめぐる精神文化が大衆文化の中でどのように育まれてきたのか。アメリカ社会における階級の問題との連関を探りながら、さらに、アメリカのナショナルな物語の生成と発展の観点からの考察を継続している。
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