研究課題/領域番号 |
19K00535
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研究機関 | 東京純心大学 |
研究代表者 |
大竹 聖美 東京純心大学, 現代文化学部, 教授 (60386795)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 韓国児童文学 / 方定煥 / 朝鮮近代 / セクトン会 / 天道教 / オリニ運動 / 朝鮮童話 / 世界名作童話 |
研究実績の概要 |
韓国児童文学の成立期を考察するうえでもっとも注目すべき年代として、1923年に注目し、なかでも朝鮮初の本格的な近代児童文芸誌として多くの童話・童謡・童話劇を生み出した『オリニ』(1923年創刊)の創刊号を日本語に訳出し検討した。 『オリニ』は、国民文学ともいえる創作童話や童謡を生み出したばかりでなく、世界名作童話の紹介、朝鮮伝来童話の発掘、歴史物語、紀行文、笑い話のほか、懸賞問題や算数問題、科学知識など広く朝鮮の子どもたちに楽しみと教養を与えた総合的な児童文化誌でもあった。「オリニ」は朝鮮語で「子ども」を意味し、ハングルで表記される純粋韓国語であり、方定煥が主幹した。 儒教規範が強い伝統的な朝鮮社会では尊重されなかった子ども=幼い人たちの価値を認めた「オリニ」という新しい言葉を幼い人たちへの尊称として使った方定煥には確固とした思想的背景があった。それは朝鮮の民族宗教である天道教である。方定煥は、1917年に天道教第三代教主孫秉熙の三女と結婚し、その後も天道教で重要なポジションについた。 韓国児童文学の成立期を解明するには、その中心で多方面の仕事をした方定煥の思想と活動を研究する必要がある。しかしながら、方定煥の伝記的研究から明らかになった天道教の信仰という朝鮮民衆の伝統的精神文化からの考察は不足している。2021年度は、『オリニ』創刊号の訳出と考察に加えて、方定煥の天道教信仰による子ども観を知ることができる「オリニ賛美」を訳出しながら、方定煥が信仰する天道教のハンウルニムを子どもの中に見出しながら「オリニ運動」を行ったことを確認した。天道教のハンウルニム信仰、<人乃天>思想が方定煥の「オリニ運動」の核心部分に存在していることを韓国語史料を慎重に日本語訳し考察している。管見では「オリニ賛美」の日本語訳は初めての作業なので資料的価値が大きいと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年以降、世界的な新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、国内国外問わず、移動が伴う研究と発表ができなくなっている。そのため、韓国現地での史料の入手や研究会参加による情報交換、取材や踏査活動が丸2年間できていないため、必然的に研究は当初の計画より遅れている。 しかしながら、史料の訳出や分析作業は手持ちの資料で地道に行い、成果を論文にまとめ発表しているため、当初の計画とは異なるが、研究としては進展している。また、国内外の学会での発表はオンラインで行うことができた。 例えば、2020年8月に予定されていた韓国大邱市での第15回アジア児童文学大会は、コロナ渦のために同年の開催は見送られていたが、2021年8月にはオンライン開催に方法が変更されたうえで実施された。 そこで、アジア児童文学に関する研究成果をアジア各国の研究者に向けて発表するため、東京純心大学に拠点を設け、韓国大邱市に設置されたオンライン大会本部とつなぎ、同様に中国、台湾、韓国各都市から参加した発表者に並んで同時通訳付きのリアルタイムでの発表ならびに質疑応答に参加することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年7月23日に韓国ソウル大学国語国文科の主催で「国際方定煥フォーラム」が予定されている。ここで、本研究の成果として、東京で発足したセクトン会を中心とした「オリニ運動」に関して日本人研究者の立場で発表する予定である。 7月は、日本からオンラインで参加し、リアルタイムで発表・質疑応答に応じる予定だが、2023年に『オリニ』誌創刊100年、「セクトン会」創立100年などの韓国児童文学の節目を迎えるため、2021年ごろから様々な学術団体、文化施設での記念行事が次々と行われており、7月の「国際方定煥フォーラム」もその一環である。 そのため、日韓間の移動を伴う現地踏査などの研究活動が可能となることを願い、2022年度は、2年ぶりの現地調査を行いたい。 2023年1月14日には同じように「韓国オリニナル(子どもの日)100年」を記念した韓国オリニ青少年文学会の研究大会での発表の招聘を受けている。 これらの国際的な研究大会で、日本人研究者の立場で成果発表できるよう、一年間をかけて準備することになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度、21年度と2年間にわたって、世界的な新型コロナウイルス感染症拡大による影響で、移動を伴う国内外への出張ができていないため、研究経費が繰越されている。韓国・ソウルへの研究出張(史料収集、現地史跡踏査、現地文学館等での展示会、発表会、イベント参加による情報収集、取材、韓国の研究所や学会所属の研究者との討論、情報交換)が本研究の遂行には重要となっており、経費の使用計画を立てていたが、過去2年間実施できないでいる。2022年度においては、研究出張が可能となった段階でこの予算を使用してこれまでできなかった新たな史料収集や情報収集などの研究活動を集中的に行いたい。
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