研究5年目にあたって、論文(単著)3点、図書 (単著)1点を刊行した。 論文「ドイツ語から見たゲルマン語 (11)―過去形と完了形:時制、アスペクト、話法―」では、ゲルマン諸語における過去時の表現を時制による過去形と広義のアスペクトによる完了形の分布から総括し、ドイツ語などの時制としての過去形が話法としての性格を有することを論じた。論文「ドイツ語から見たゲルマン語 (12)―進行形と不在構文 (付:正誤表)―」は、英語に代表される進行形の表現が文法化の度合いは異なるものの、他のゲルマン諸語にも存在する事実を確認し、前置詞句進行形と姿勢動詞進行形の2種類に大別されることを実証的に示したものである。併せて、進行形と密接に関係する現代ゲルマン諸語の不在構文についても考察した。論文「ドイツ語から見たゲルマン語 (13)-文の構造 (付:正誤表 2)―」では、現代ゲルマン諸語の文が定形性非対称による枠構造を基本とし、例外は英語、イディッシュ語などごく少数に限られること、また、類書に散見される枠構造は北ゲルマン語には存在しないという記述が誤解であることを論じた。さらに、西フリジア語や大陸北ゲルマン語に見られる dat/att/at-主文の特殊性を指摘した。上記3点には、文学作品からも用例を引用し、音楽との関係から歌曲などの分析も織り交ぜている。これを以て、本研究の主要テーマは論じ尽くしたことになる。 著書『ゲルマン諸語のしくみ』は、本科研費および公益財団法人ドイツ語学文学振興会の刊行助成金を獲得し、出版費用の一部に充てる形で刊行した単著である。前著『ゲルマン語歴史類型論』が個々のトピックに限定した論文集であるのに対して、本書は70余りの現代語、古語、方言から用例を収集し、ゲルマン語学の諸相を網羅的に扱っており、本研究のテーマを総括した最終的成果として位置付けられる。
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