研究課題/領域番号 |
19K00543
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
白井 聡子 筑波大学, 人文社会系, 学振特別研究員 (70372555)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 危機言語 / ダパ語 / 現地調査 / 言語地図 / 国際連携 / 記述言語学 / 地理言語学 |
研究実績の概要 |
[1] 方言調査:研究協力者・黄陽(西南交通大学・准教授)は、中国四川省康定市および雅江県において、ダパ語南部方言群地域である木絨郷の複数の村の出身者を対象として現地調査を実施した。特に、沙学村に滞在して当該地域の詳細な現地調査を初めて実施し、語彙および自然発話資料を収集した。新たに収集した語彙の一部はすでにデータベースおよび音声ファイルの形で整理され、方言対照用の資料として代表者に提供されている。白井は現地における新型コロナウイルス感染拡大の影響などにより、予定していた現地調査を実施することができなかった。代わりに、過去の現地調査で得た資料および先行研究を用いて、方言対照データベースの拡充を進めた。 [2] 文法記述:方言対照を含む包括的な文法記述を目指して、様々な文法現象の解明に取り組んだ。(1) 主題標示について。ダパ語メト方言の主題表示手段について、詳細な記述を行った。さらに、主題標識について、ダパ語の他の方言にも同系言語にも同源形式が見られず、チベット語からの借用である可能性が高いこと、ダパ語固有の主題標示は文頭に置く文法的手段のみであったことを明らかにした。(2) 名詞修飾構造について。名詞修飾構造の全体像を記述し、名詞修飾要素がいずれも体言化形式であることを明らかにした。さらに、属格標識の機能を分析し、体言基盤体言化標識としての位置づけを明らかにした。(3) 方向接辞について。方向接辞の発達過程について対照言語学的観点から新たな仮説を立てた。また、動詞と方向接辞の組み合わせを詳しく記述した。(4) このほか、人魚構文、証拠性などについて研究を進めた。以上の成果は論文ないし口頭発表の形で公開した。 [3] 言語地図:黄陽(西南交通大学・准教授)は、これまでの調査に基づき、瓦多郷と木絨郷の12の村の簡易方言地図を試作した。白井は、地理言語学的観点からの分析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
白井は2月に北部方言資料収集のための現地調査を予定していたが、現地における新型コロナウイルス感染拡大のために中止せざるを得なかった。そのため、白井担当分の資料収集に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
[1] 現地調査を実施し、ダパ語が話される45村のうち、可能な限り多くの村の方言資料を収集する。調査内容は、Swadesh の基礎語彙100語のほか、Nagano & Prins (2013) の基礎500語、方言特徴の出やすい語彙を含む語彙リスト、および、基本例文集とする。ただし、新型コロナウイルス感染症拡大防止のための施策で、現地へのアクセスが厳しく制限されており、調査再開の見通しが立っていない。調査が可能になり次第、再開するが、それまでの間、既存の資料の再調査によって研究を進める。特に、テクスト資料の分析を行い、学術誌の研究資料・研究ノート等の枠を活用して随時発表し、幅広い利用に供する。 [2] 様々な文法現象に関する分析を進め、参照文法の執筆を行う。プロソディー、情報構造、否定形式、体言化などについて、類型論的観点と方言比較の観点から分析を行う。3年目に、包括的記述、語彙集、テクスト集を含む、ダパ語メト方言レファレンス・グラマーの試作版を完成させ、4年目(最終年度)に方言対照文法を含む文法書の原稿を完成させ、翌年度に公刊する。 [3] 収集した方言資料にもとづき、方言特徴の地理的分布を描画する。この作業に当たっては45村すべてについて資料がそろっていることが理想的であるが、現状では全村方言の資料を収集することは困難であるため、主要方言の資料にもとづく試作版を作成することになる。最終年度には、この試作版言語地図にもとづき、方言区分の検討を行う。さらに、試作版言語地図を用いて、それぞれの言語特徴について地理言語学的観点から相対年代の分析を試み、歴史的形成過程解明に道筋をつける。これら地理言語学的研究の成果は、内外の学会で発表し、研究討議を通して、より広い観点からの分析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、出席予定であった国内会議が中止された。そのため、国内旅費が一部未執行となった。また、現地調査も中止せざるを得ず、この成果を踏まえて執筆予定であった論文を完成させることができなかったため、その分の英文校正費用が未執行となった。国内旅費については、予定されていた会議が開催された場合には旅費として使用し、遠隔開催となった場合には必要な機材(ヘッドセットなど)の購入に充てる。英文校正費用については、先行研究などもちいた調査を行い、論文を執筆して、英文校正を依頼し、使用する。
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