研究課題/領域番号 |
19K00551
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岸田 泰浩 大阪大学, 日本語日本文化教育センター, 教授 (40273742)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | evidentiality / 統語論 / 形態論 / 類型論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、evidentialityと称される文法概念について、その形態的及び統語的な特徴を通言語的に考察し、理論的な研究を推進するために活用できる類型論的特性を探求することである。さらに、膠着性が形態論に限定されず、統語論を含めた言語の構造全体に深く関わっているという言語観のもと、evidentialityの形態構成の類型及び形態と統語との間に観られる相関性を明らかにすることを目指す。この研究目的に沿って、初年度は以下のように研究をおこなった。 (1)言語データの調査・収集・整理 Evidentialityの形態および統語的な側面に焦点を当て、様々な言語のデータを既存の文献(文法書・語学書を含む)を活用して調査した。特にevidentiality beltを構成する言語(ブルガリア語、グルジア語、アルメニア語、ダゲスタン諸語、タジク語、ウイグル語等)で一般的である、現在完了形に端を発するevidentiality形式について、他の地域でも類似の使用が観察されるか、現在完了形の諸用法にどのような類似点や相違点があるか等、候補形式の形態的振る舞いや用法の広がりについて詳細に考察を重ねた。また、現在完了形以外によるevidentialityの表現形式についても調査を進め、次年度の研究につなげるための資料を収集することができた。 (2)データベース構築のための基礎作業 最終的には形態・統語・意味の側面から検索できるリレーショナル・データベースを目指すが、初年度は、基本となると思われる項目を設定したデータベースのテンプレートを作成し、それに沿ってデータの入力を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
データ収集に際しては、既存の文献を利用するほか、evidentiality beltに属するコーカサスで言語資料等の収集のためにフィールドワークを実施する計画であったが、コロナ禍のために海外出張が叶わなかった。しかし、その分の経費を文献収集等に当てることで、対象言語の数を増やし、考察範囲を広げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)Evidentialityの形態構成における類型論的特徴の考察 Evidentialityの理論的研究に焦点を当て、従来の文献の見解を収集されたデータと突き合わせ、その妥当性を検証し、候補形式に関する通言語的・類型論的特徴を抽出する。具体的には、Aikhenvald(2004)等で意味的側面を中心にまとめられたevidentialityの多様性について、参照された文献に立ち戻ってその形態的構成を復元し、整理する。次に、evidentiality標識の候補形式が元来担う意味が、evidentialityとしての使用報告がない言語においてどのような形態的手段で表現されているかを調査し、形式とevidentialityの意味・用法との相関性を考察する。 (2)Evidentialityの形態構成と統語構造との相関関係 古代日本語やトルコ語のevidentiality形式が形態構成上、(もっとも)外側にあることは、それが(独立した主要部を構成するなら)統語構造において上位に位置し、cartography的には、IPファミリーであったトルコ語の完了の-mis等が、evidentialityに発達した結果、CPファミリーに変異した可能性を示唆する。他の言語についても、形態構成に関する類型論的特徴をもとに、cartography研究や分散形態論(Distributed Morphology)の知見を参照しながら、evidentialityの機能を担う多種多様な形式を統語構造の中でどのように位置づけるべきかを考察する。 (3)データベースの拡充 調査の進捗状況に合わせてデータベースの項目の追加や修正を行っていく。
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