研究課題/領域番号 |
19K00551
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岸田 泰浩 大阪大学, 日本語日本文化教育センター, 教授 (40273742)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | evidentiality / 証拠性 / 類型論 / アルメニア語 / コーカサス |
研究実績の概要 |
2020年度は、まず、Evidentiality(以下、Evidと略す)の形態構成における類型論的特徴について、Evidの理論的研究に焦点を当てた。従来の文献の見解を収集されたデータと突き合わせながら、その妥当性を検証し、候補形式に関する通言語的・類型論的特徴を抽出した。その後、Aikhenvald (2004) Evidentiality (Oxford Univ. Press) 等において意味的側面を中心にまとめられたEvidの多様性について、参照された文献に立ち戻ってその形態的構成を整理した。また、古代日本語やトルコ語のEvid形式が形態構成上、(最も)外側にあることは、それが独立した主要部を構成するなら、統語構造において上位に位置し、cartography的にはIPファミリーであったトルコ語の完了の-mis等がEvidに発達した結果、CPファミリーに変異した可能性が示唆されるが、このような形態構成と統語構造との相関関係を基軸にして、cartography研究や分散形態論(Distributed Morphology)の知見を参照しながら、Evidが担う機能を統語構造の中でどのように位置づけるべきかという問題に取り組んだ。さらに、Aikhenvald (2018) The Oxford Handbook of Evidentiality にはEvidに関する最新の知見が収められている一方で、本研究代表者がフィールド調査の中心におくアルメニア語の情報は皆無であり、グルジア語についてもわずかな情報しか含まれていない。年度の後半では、両言語がEvidの類型論的・理論的研究にどう貢献できるかについて再検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
データ収集に際しては、既存の文献を利用したが、それらはEvidentialityという観点から記述・分析されたものとは限らず、Evid標識の候補形式が元来担う意味が、Evidentialityとしての使用報告がない言語においてどのような形態的手段で表現されているかを調査するには母語話者に対するインフォーマント調査が不可欠である。しかしながら、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)の影響で2020年度を通してそれが国内においてさえ困難であった。さらに、Evidにおける形態構成と統語構造との相関関係を理論言語学の観点から分析するために緻密なデータ構築と考察が必須であることに鑑み、Evid Beltに属するコーカサスに赴き、言語資料等の収集および言語調査フィールドワークを実施する計画であったが、COVID-19の影響で海外出張が叶う状況ではなかった。そのため、文献で読み取れる範囲で分析をおこなったものの、不十分かつ不正確な点があることは否めない。データベースへの入力を躊躇わせる例も多くあり、データベースの十分な拡充に至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も海外へ出向いての調査が容易ではないと推測されるため、文献資料の考察と分析に研究の中心を据え直しつつ、現地調査の機会も待ちたい。また、インフォーマント調査ではオンラインを積極的に活用する。Evidentiality(以下、Evidと略す)の形態構成における類型論的特徴については、これまでに文献から収集してまとめてきた資料について、類型論的一般化を導きだす。その際、Aikhenvald(2018)において、記述が皆無ないし手薄であったアルメニア語やグルジア語の特性をどのように取り入れるべきかに重点を置くことで、コーカサス言語の研究の知見を以てEvid研究に貢献したい。Evidの統語的側面については、普遍的な統語的機能範疇としてどのような解釈が可能であるかを考えるための先駆的考察として、先に言及した両言語、特にアルメニア語についてその動詞活用体系を見直すとともに、当該言語のEvidの統語的位置づけを明らかにしたい。Cartography研究等の理論統語論では、機能(意味)と主要部が一対一対応するという「統語的膠着性」に重きを置く。形態論だけでなく、統語論にも膠着性が重要な概念であるという言語観に立ち、本研究課題が主眼としているEvidの形態的特徴の探求で得られた知見をもとにして、形態構成と統語構造との間にどのような相関性があるかについて一つの見解を示し、統語論や分散形態論等の発展にも寄与できる提案を行う。成果の公表には、CSEL (Consortium for the Studies of Eurasian Languages)が発行する刊行物等に加え、CSELウェブサイト、Academia.eduやResearchGate等の研究者向けSNSサービスも活用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の影響を受け、調査地域(コーカサス)へ赴いての調査ができず、国内学会もオンラインであったため、旅費が使用できなかった。また、留学生の来日も困難となり、対面調査も困難であったため、母語話者インフォーマント調査も叶わず、諸金も使用するに至らなかった。次年度も、海外へ出向いての調査が容易ではないことが推測されるため、文献資料の考察と分析に研究の中心を据え直しつつも、現地調査の機会を待ちたい。母語話者に対するインフォーマント調査は、在住地に関わらずオンラインを積極的に活用し、次年度は謝金の支出を見込む。
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