研究実績の概要 |
今年度は「古英語動詞体系を歴史・比較言語学的に考察する」(1)(2)という2本の論考を公刊した。これらにより、古英語ならびにゲルマン語の動詞体系の問題点を体系的に考察することとなった。インドヨーロッパ祖語の複雑な動詞体系からゲルマン語強変化動詞の体系がどのようにして生じたのかを、特に語等置の方法(the method of word equation)を用いて明らかにするのが本研究の主目的であるが、この問題を考察するにあたり、これまでの歴史・比較言語学研究で明らかになっていない問題が少なからずあることを念頭に置いてアプローチするのがよいという着想を得たものである。例えば、西ゲルマン語強変化動詞2人称単数過去形に「過去複数」語幹が用いられるという現象があるが、この特異な形態的特徴が何に由来するか従来様々な議論がある。語幹形成母音によるアオリスト形 (a thematic aorist) が起源だとする説(Prokosch 1939, Campbell 1959, Hogg and Fulk 2011など)、完了希求法の形(a perfect optative)が起源だとする説(Jasanoff 2004など)、語根アオリスト希求法の形(a root aorist optative)が起源だとする説(Bammesberger 1986など)などである。このような特異な現象が強変化動詞生成過程についての重要なヒントを与えているのではないかという視点によって考察することは価値があると着想し、西ゲルマン語強変化過去2人称単数系の由来について従来と異なる説明がありるうると着想した。
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