本研究では、最小対(ミニマルペア)に特徴付けられるような音韻的対立・語彙的な区別に注目し、これらが対象となる言語要素の実現の仕方や分布の仕方にどのような影響を与えるのか、そこにはどのようなパターンがあるのかということを明らかにすべく、計画を実施した。 本研究では大規模コーパスの実際の発話データを使って大量の発話データを調べることで、日本語における1. 母音・子音の長さの対立、2. アクセントの対立、3. 有声・無声の対立に注目し、対立を担う(最小対を持つ)場合とそうでない場合で実際の発話での実現形・分布に違いがあるかを調べた。結果は以下の通りである。 1. 弁別素性の強調発音・パターン:最小対、対立・区別の影響として、対立を担う場合、弁別素性の発音特徴に違いが確認された(単音はより短く・促音はより長くなる、有声音はより短く・無声音はより長くなる)。 2. 分節音の特徴による違い:対象となる要素(音)の調音法、調音位置、有声性などの特徴の、弁別的強調発音への影響が確認された。3. 韻律・その他の特徴の影響:長さに加えて、アクセント、品詞、語種の違いが;区別の手掛かりになる場合、また発話速度、語彙頻度に違いがある場合の弁別的強調発音に対する影響が確認された。4. 通言語的な比較・検討:弁別的強調発音の全体的な特徴は、英語のそれと共通するが、細かい点については相違点も観察された。5. 「有声・無声の対立」と「子音の長さの対立」は独立であり、前者は閉鎖持続時間の長短に影響を与えるが、後者は無関係であることが確認された。6. 母音の長さの対立による強調発音が、単語の位置や長さの影響を受けること、ただし音韻句ではこれが起こらないことが確認された。 その他に、日本語の「ピッチレンジ」に関するデータを分析し、スタイル・性別による影響や、学習者の母語による影響などに関して新たな知見を得た。
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