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2019 年度 実施状況報告書

フェイズと転送領域の研究ー照応形束縛と移動の局所性に関する日英語比較から

研究課題

研究課題/領域番号 19K00561
研究機関南山大学

研究代表者

斎藤 衛  南山大学, 国際教養学部, 教授 (70186964)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2023-03-31
キーワード比較統語論 / フェイズ / 転送 / 使役文 / 適正束縛効果 / phi素性一致 / NP移動 / 局所性
研究実績の概要

移動と照応形束縛の局所性を説明するフェイズと転送の理論について、研究を遂行した。Chomsky(2008)の修正案として、Saito(2017)で提示した(1)の作業仮説の経験的帰結を追求することに注力した。照応形束縛に見られる日英語の相違が導かれることは、すでに明らかにしていたが、研究の対象を移動現象に拡張した。
(1) a. CPとv*P をフェイズとする標準理論に対して、vPおよびC、v*からphi素性を受け継ぐTP、VPもフェイズとする。b. フェイズが完成した時点でその補部が転送されるとする標準理論に対して、フェイズ完成時に、下位のフェイズが転送されるとする。
まず、日本語使役文のパラドックスを解決することを試みた。日本語使役文(2)「花子が太郎にその部屋を掃除させた」は、英語の(3) "Mary made John clean the room" と異なり、表層的には単文である。(2)のような文は、照応形束縛やスクランブリングに関しては、実際に単文のパターンを示すが、NP移動については複文の性質を持つ。例えば、(2)を受動化して、「その部屋が花子によって太郎に掃除させられた」とすることはできない。本研究では、日本語使役文の複雑な性質が、(1)の帰結として導かれることを示した。
また、1980年代から問題とされてきた日英語の相違に、NP移動によって目的語が取り出された動詞句を前置しうるか否かがある。例としては、(4) "John said it might fall into the ditch, and fall into the ditch, it did" が文法的に適格である一方、(5)x「溝に落ちさえ、ボールがした」が許容されない。本研究では、この相違を検討し、Chomsky(2017)のワークスペース理論と(1)を組み合わせることにより、分析を提示した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2019年度に予定していた研究は、ほぼ完了することができた。日本語使役文に関する研究成果は、“On the Causative Paradoxes: Derivations and Transfer Domains”と題する論文にまとめ、Nanzan Linguistics 15 (25-44, 2020年3月) に公表した。NP移動によって目的語が取り出された動詞句 の前置に関する研究は、ドイツ文法理論研究会2019年春の大会 (6月9日、学習院大学) における招待講演、The 12th International Workshop on Theoretical East Asian Linguistics (7月9日、マカオ大学) における基調講演の一部として発表した。また、12月4日にアリゾナ大学言語学科にて“Variation in Transfer Domains and the Presence/Absence of φ-feature Agreement”と題する研究会発表を行い、Noam Chomsky氏を始めとする同大学の研究者と意見交換をすることができた。2020年度には、この内容をさらに発展させ、論文にまとめる予定である。
本研究プロジェクトのもう一つの大きな柱は、Wh演算子移動の局所性の研究である。いわゆるWh移動に係る島の制約をフェイズと転送の理論に基づいて説明する試みとしては、Zeljko Boskovic氏の一連の研究があるが、氏の仮定するフェイズの定義は、本研究の作業仮説とは一致しない。そこで、2020年3月にコネティカット大学で氏と集中的に討議をし、共同研究を行う予定であったが、コロナウィルス蔓延のため、延期せざるを得なかった。2020年度のできるだけ早い時期に共同研究を開始したい。

今後の研究の推進方策

(1) NP移動によって目的語が取り出された動詞句の前置に関する研究を完成させ、論文としてまとめる。論文執筆を依頼されている韓国生成文法学会機関誌 Studies in Generative Grammar に公表する予定にしている。
(2) Wh演算子移動の局所性に関するZeljko Boskovic氏との共同研究を開始する。そのために、2020年度は、1週間程度コネティカット大学に滞在する予定である。フェイズと転送領域の定義のみならず、名詞句の構造や修飾句の構造における位置づけなど、多くの未解決の問題を追求する必要があり、共同研究は数年を要するものとなる。
(3) 日本語使役文の分析結果に基づき、日本語の複合動詞文全般について再考する。複合動詞文の分析では、特に、受動文と可能文で、格与値の局所性に関する問題が残されているが、フェイズと転送の理論およびラベル付け理論による解決を追求し、研究範囲を文法格に広げる。
(4) 本研究の作業仮説は、Norbert Hornstein氏などによって提唱されている制御文の移動分析とフェイズ理論の矛盾を解消する可能性を孕む。この可能性を追求するにあたって、2020年度は、制御文の分析に関する文献の調査、問題点の整理など、基礎的な研究を行う。
(5) 2020年度も、国内外での研究成果の発表、そして特に海外の研究者との交流・意見交換を積極的に行う。

次年度使用額が生じた理由

2020年2月末に研究協力者を招聘したワークショップ、3月に共同研究のためのアメリカ出張を予定していたが、コロナウィルス蔓延の影響で延期せざるを得なかった。いずれも、2020年度に行う予定である。
2020年度の計画については、予定通り、国内外での研究発表、共同研究のための出張を行う。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2020 2019 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] On the Causative Paradoxes: Derivations and Transfer Domains2020

    • 著者名/発表者名
      Saito, Mamoru
    • 雑誌名

      Nanzan Linguistics

      巻: 15 ページ: 25-44

    • オープンアクセス
  • [学会発表] 転送の単位と言語間変異ー移動と束縛における局所性をめぐって2019

    • 著者名/発表者名
      斎藤 衛
    • 学会等名
      ドイツ文法理論研究会2019年春の大会
    • 招待講演
  • [学会発表] Variation in Transfer Domains and the Presence/Absence of Phi-feature Agreement2019

    • 著者名/発表者名
      Saito, Mamoru
    • 学会等名
      The 12th International Workshop on Theoretical East Asian Linguistics
    • 国際学会 / 招待講演
  • [備考] 南山大学言語学研究センター研究員紹介

    • URL

      http://www.ic.nanzan-u.ac.jp/LINGUISTICS/staff/index.html

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公開日: 2021-01-27  

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