研究課題/領域番号 |
19K00561
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
斎藤 衛 南山大学, 国際教養学部, 教授 (70186964)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 比較統語論 / フェイズ / 転送領域 / 制御 / コピー形成 / カートグラフィー / ラベル付け / phi素性一致 |
研究実績の概要 |
2020年秋の日本言語学会において、N. Chomsky氏が講演を行い、コピー形成という操作に基づく制御の新たな分析を提案した。本年度は、これまでのフェイズと転送領域に関する研究を、この新たな分析との関係において発展させた。まず、コピー形成が、空演算子など、制御以外の現象にも説明を与えることを示し、新たな分析を支持する議論を展開した。その上で、Chomsky氏の制御の分析が標準的なフェイズの定義と相容れないことを示し、本研究で作業仮説としている定義が、氏の分析の下で、制御の局所性を正しく予測することを論証した。 この成果は、韓国Modern Grammar Society主催のワークショップ Workspace, MERGE, and Labeling(Online, 2022/2/17)における招待研究発表の中で公表した。この研究発表に基づく論文“Two Notes on Copy Formation”は、Nanzan Linguistics 17(2022/3)に掲載されている。 また、日本語における句構造と移動現象全般を見直す研究を行った。これは、本研究プロジェクトの主要目的であるフェイズ理論研究の基礎をなす記述的研究と位置付けられる。成果の概要は、Oxford Research Encyclopedia of Linguistics に公開した。(Online、2021/12) 同じく関連する研究の成果として、日韓語のスクランブリングが、phi素性一致の欠如とラベル付けから説明されることを示す論文“Weak Heads in Labeling: Why J/K-type Scrambling is Allowed”をSyracuse/Cornell Workshop on Scrambling(Online)で発表した。(2022/5/8)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究プロジェクトの主要な目的は、日英語比較を通して、フェイズ理論の発展に貢献することであるが、全体としては、予想以上の成果をあげることができている。フェイズと転送領域の新たな定義を提案し、すでに以下の帰結が得られることを示して、研究成果として公表した。 (1) 表層的には異なるように見える日英語の照応形束縛の局所性を正確に予測する。(2) 小節を除き、補文の構造を一様にCPとして分析することを可能にする。(3) 単文と複文双方の性質を示し、矛盾を孕むように見える日本語使役文の性質に統一的な説明を与える。(4) NP移動+A’ 移動による残留句前置の文法性に見られる日英語の相違に説明を与える。(5) これまでは、全く別のものと考えられていた移動と制御の局所性を統一的に捉える。 また、密接に関連する研究テーマについても、具体的な成果を得ている。ラベル付け理論の研究では、日本語が多様な名詞修飾節やスクランブリングによる自由語順を許容する事実が、ラベル付けのメカニズムから説明されることを示した。カートグラフィー研究では、日本語wh句の分布と解釈を検討して、wh句を焦点演算子とする分析を提示した。この分析が正しければ、以前の研究と合わせて、日本語の文周縁部構造がイタリア語とほぼ同じであるという結論が得られる。 一方で、コロナの影響があり、演算子移動に係る島の制約をフェイズと転送の理論から導く研究は遅れている。文献調査や資料整理などの予備研究は行っているが、本研究は、コネティカット大学のZeljko Boskovic教授やケンブリッジ大学のIan Roberts教授と共同で集中的に遂行する計画であり、これが実現していない。また、オンラインの研究発表を継続して行っているが、対面で実施されている学会には参加できていない。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 制御と移動の局所性に関する2021年度の研究をさらに発展させる。特に、コピー形成に基づく日本語の制御現象の研究を深め、制御の包括的な分析を提示することをめざす。2022年8月にGLOW in Asia(アジア理論言語学会)第13回大会がオンラインで開催されるが、主催者の香港中文大学から招待研究発表を依頼されており、そこで成果を公表する予定である。 (2) プロジェクトの成果全般を反映した比較統語論に関する著書の執筆を進める。これまでのフェイズ理論に関する成果はいくつかの論文に分散して発表しているので、2022年度にはこれをまとめる作業を行い、著書の一部として公表する。 (3) カートグラフィー研究を継続して遂行する。日本語wh句の焦点解釈に関する2020年度の論文“Wh-Phrases as Genuine Focus Operators”に修正を加え、出版用の最終原稿を完成させる。また、日本語補文標識と補文の意味解釈に関する研究を再開して、特に英語における補文の意味分析に関する帰結を追求する。この成果は、2022年11月に日本英語学会で招待講演を行うことになっており、そこで発表する予定である。 (4) コロナの状況が許せば、コネティカット大学、ケンブリッジ大学に滞在して、wh演算子移動の局所性に関するZeljko Boskovic氏、Ian Roberts氏との共同研究を遂行する。フェイズと転送領域の定義のみならず、名詞句や修飾句の構造などに関する多くの未解決の問題を追求する必要があり、共同研究は複数年を要するものとなる。 (5) 2022年度も、国内外での研究成果の発表、そして国内外の研究者との交流・意見交換を積極的に行う。特に、若手研究者との研究成果の共有に努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コネティカット大学Zeljko Boskovic教授、ケンブリッジ大学Ian Roberts教授と共同研究を行うために外国旅費の支出を予定していたが、コロナ禍のため、これを延期せざるを得なかった。また、インド (GLOW in Asia) で研究発表を行うことも予定していたが、これについては、学会の開催が延期された。2022年度 (以降) に共同研究、研究成果の公表を行う予定であり、今年度使用しなかった外国旅費が必要となる。使用年度を変更することになるが、使用内容に変更はない。
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