研究課題/領域番号 |
19K00567
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
海老原 志穂 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (30511266)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | チベット・ヒマラヤ / 牧畜 / 民俗語彙 / チベット系言語 / ネパール / ブータン / ヤク / 牧畜文化語彙 |
研究実績の概要 |
令和三年度も新型コロナウイルス感染拡大のため、海外で現地調査を遂行することがかなわなかったため、未発表の現地調査データの整理・公開や、文献調査、データベースの入力、辞典の英訳、オンラインでの共同研究会など、研究課題の推進に関連する活動を積極的に行った。研究の実施状況を、(a)-(d)に分けて述べる。 (a)論文執筆:令和元年度に行った、ネパール北中部での現地調査で得られたデータを整理し、「ヤクとゾの毛色の識別に用いられる色彩語彙の比較研究 ──ネパール北中部のチベット系民族の事例を中心に──」、「ネパール北中部で話されるチベット語ツム方言における牧畜文化語彙の調査報告」という論文を執筆した。その他、言語地図を用いた地理言語学的研究の成果 ('Milk’ in Asia, ‘Milk’ in Tibeto-Burman) が収録されたLinguistic Atlas of Asiaが刊行された。 (b)『チベット牧畜文化辞典』の英訳:本課題のテーマとする「民俗語彙」とも深く関係する『チベット牧畜文化辞典』(令和元年度に共編にて刊行)の英語への翻訳も進めた。 (c)共同研究の推進:牧畜に関する「民俗語彙」の体系化と地域間比較を推進するため、アジア・アフリカ言語文化研究所共同利用・共同研究課題「チベット・ヒマラヤ牧畜文化論の構築―民俗語彙の体系的比較にもとづいて―」の研究代表を2020年度より務めている。4回の研究会では、現地調査の報告や民俗語彙の比較の方法論についての議論が行われた。 (d)アウトリーチ:これまでの現地調査での知見を社会に還元するためにポータルサイト上で牧畜文化に関する記事の執筆を行った他、2021年度の人文研アカデミーにて「家畜の呼称からみるチベット牧畜民の世界」と題する発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度には新型コロナウィルス蔓延の影響により、現地調査、及び、国内外の学会・研究会の開催が延期・中止となった。そのような状況において、予定していた研究の遂行は困難であった。しかしながら、過去の未発表データの整理及び、チベット・ヒマラヤ地域の牧畜文化や言語に関する文献調査、成果公開、オンラインでの研究発表、共同研究の運営、アウトリーチ活動など、研究課題遂行のために可能な努力を行った。特に、ブータンやネパールで行った現地調査に基づいた、チベット系民族の牧畜文化語彙の記録と地域間比較は、チベット学及び、チベット語学においても独創的な研究対象・アプローチであり、今後、調査地域を拡大していくことで大きな進展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も重要な未記述下位方言の記述を継続し、各言語特徴についてチベット語各下位方言の語形を一覧化し、言語地図作成を進めながら、各時代の文献にみられるチベット書写語の当該項目を調べる。話者の生業に着目しながら、東西方言の共通性に関する仮説の検証、通時的な視点から比較・考察を行う 。具体的には以下のようになる。海外渡航が困難な場合には現地調査による言語記述は見合わせ、データベース入力、データ整理・分析、論文やデータ集の執筆に注力する。 i) 個別言語の記述:民俗語彙のうち、牧畜語彙はすでに4900項目を記録済である。農耕語彙に関しては、『東南アジア伝統農業資料集成』第四巻を参考にし、調査票を作成中である。これらの調査票に基づき、インド北部で話される西部古方言の3下位方言の基礎語彙、例文の他、民俗語彙を収集する。 ii) 言語地図の作成:牧畜文化語彙に関する言語地図作成のためのデータを用意する。必要な地点の地理・出典情報はすでに整理・入力済みである。選定した語彙・文法項目に関する各地点のデータを応募者自身が集めた一次資料、公刊されている二次資料を用いて入力し、ArcGIS上で言語地図を作成し、地理言語学的な分析を加える。農牧業に関する語彙について10項目程度の地図を作成・分析する。 iii) 書写語データとの比較:チベット書写語データは、各時代ごとに、データベース、各種文法書、辞書及び、すでに電子化されているコーパスのデータを用いて調査項目の対応形式を抽出する。時代や地域性、各文献特有の言語特徴に留意し比較検討を進める。 iv) 東西方言の共通性に関する仮説の検証、通時的な視点からの比較・考察:東西方言の共通性を説明する仮説; (1)「移動説」、(2)「方言周圏説」、(3)「ビックバン説」の検証を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和三年度も新型コロナウイルス蔓延の影響で予定していた現地調査及び、学会発表のための国内外渡航が延期・中止となった。令和四年度にはこの差額を資料購入、可能であれば、現地調査のための旅費にあてる予定である。
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